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めぐちゃんからのお手紙

だれにもみせなくていいよ。

ゆんちゃんへ(「へ」にちょんちょん)

元気のマホウの精
しんぱいするめぐみより

ここに、一通のお手紙がある。

"手紙"ではなく"手紙"。

ハガキサイズの4枚の小さな便箋に、やや小さめの丸っこい几帳面そうな文字が並ぶ。

そう、めぐちゃんからのお手紙だ。

めぐみちゃん。
でも私はずっとめぐちゃんって呼んでる。
幼なじみで、私の1コ上で、早生まれだから誕生日は2ヶ月しか違わない。

お互いの家は、玄関まで徒歩50歩。

赤ちゃんの頃からいつも一緒。

可愛らしい便箋(おそらくマンガ雑誌の付録)4枚に書かれためぐちゃんからのお手紙。

NO.1
ゆんちゃんへ

ゆんちゃん元気になった・・・?
今日は音楽会のテープできいたの。1組がうたっているの。
なんか今きけば、ゆんちゃんがあのきゅうにやせた体で、ちゃんとひいているから考えちゃった。
すごい!
でもさー、ゆんちゃんのおばちゃんがすこしの入院でいいとかいっていたのに、長いやしない。
12月にはたあいんできるよね。
だってテンテ

NO.2
キとれたんでしょう。
だからもうすこしでタアイン!
そしたらいっしょにあそんで来年はたーくさんスキーいこうね。ヤクソク。
だから早く。
ゆんちゃんはほそったより、はじめのようにまるっこくなった方が好きだからはやく元気になってね。
ぜったいに。
これで病院生活2どめだけど、たいくつじゃない。
なんなら私がかわってあげようかぁ?
なんちゃって!

NO.3
あのさー、こんど12月4日の日におみまいにいってもいいかなー。マキちゃんと(いけたらさ)だめ?
もしかしてたあいんするとか・・・? 
ねーいいでしょ。
私もゆんちゃんとこあそびにいきたいし、顔みたいからさぁ。
いいよねー。ゆんちゃん。
そうときまったらゆんちゃんのへやおしえて

NO.4
ね。私そしたらいくからさ。
もし、行っちゃだめなんていったら手紙ちょうだい。
そうしないといっちゃうよ。
もし病院でたいくつだったらかんごふさんとあそんでるんだよー。
元気になってよ。
ゆんちゃん。

見慣れためぐちゃんの文字を見ると、自然と笑みがこぼれる。

このお手紙の背景を少し説明する。

小学5年生(11歳)の秋に、私は摂食障害(拒食症)で地元の総合病院に入院した。

元々30kgに満たないほどの体重が20kgを切るまでになり、それこそ骨と皮だけになった。

少量の野菜と水だけの生活を送っていたが、入院直前には水を摂取することも拒み、脱水症状になって緊急入院した。

小学校には入院ギリギリまで通い、音楽会ではガリガリの身体でピアノの伴奏もした。

そんな入院中の私に、幼なじみのめぐちゃんがお手紙をくれた。

私の家のポストに入っていたらしい。

この"お手紙"を見つけたのは昨年のお盆だった。
実家に帰省していた私は、自分の部屋の段ボールと格闘していた。

実家は十数年前に建て替えているが、その際に両親が子供時代の卒業アルバムや思い出の品をきちんと段ボール箱にまとめてくれていた。

億劫がって整理を後回しにしていたのだが、ようやく中身を確認していて見つけたのだった。

綺麗なお菓子の空き缶に入っていた封筒を開き、折り畳まれた便箋を開きながら、私はめぐちゃんを思い出しながら笑い、号泣した。

実家の近所には、めぐちゃん以外にもよく遊んだ幼なじみ達がいたけれど、手紙が残っていたのはめぐちゃんだけだった。

本当なら、、
そのお手紙を見せながらめぐちゃんと笑い合って世間話をしたかったけど、もうそれはできなかったから。

めぐちゃんは、、

2年前の12月に死んじゃったんだ。

子宮頸癌。
気付いたときには手遅れだった。

私は、母からめぐちゃんが癌になり、全身に転移したことを聞いていた。
でも、私は"子宮頸癌って治る癌だよね"と信じて疑わなかった。

あの時の私はなんて馬鹿だったんだろう。

なぜすぐにめぐちゃんのお見舞いに行くという行動に移せなかったんだろう。

本当に逢いたい大切な人には

すぐに会わないと
明日には会えなくなるかもしれないのに。

そんなことには気付きもしなかった。

お見舞いに行きたい。
めぐちゃんに逢いたい。

そう思ったときはもう遅かった。

めぐちゃんは、もう誰にも会いたくないと言っていた。
弟のなおちゃん(直樹くん)にすら。

とても悲しかったけれど、めぐちゃんの気持ちは理解できた。

めぐちゃんが亡くなってから初めて、
私はめぐちゃんの大好きな花がひまわりだったことを知った。

お仏壇に飾られている写真のめぐちゃんは、ひまわりに囲まれて満面の笑みを浮かべている。

めぐちゃんのおじちゃんとおばちゃん(ご両親)から、めぐちゃんが心から自分の仕事を愛していたことを聞いた。

都内で旦那さまと暮らしていためぐちゃんは、身体が動かなくなるギリギリまでガソリンスタンドで働いていた。

夏は暑く冬は寒い。
ガソリンや灯油の匂いはキツイし、水を使うから手はあかぎれだらけ。

病気で抗がん剤を使い、身体がボロボロなってどうしようもなく苦しいのに、めぐちゃんは仕事を休みたくないと言っていたらしい。

めぐちゃんは、冒頭のお手紙をくれた子供時代から全然変わっていなかった。

私の知っているめぐちゃんだった。

頑張り屋さん。

どこまでも優しい。

めぐちゃんからの手紙は一通だけじゃない。

ちゃんと封筒に入って消印の押されたもの(家はすぐ隣なのに)や便箋を折り畳んだものなど何通もある。

私はしんどいことがあったり、決断しなければならないことがあった時にめぐちゃんからのお手紙を開く。

大丈夫。

私にはめぐちゃんからのお守りがあるから
大丈夫。

って言い聞かせる。

私の中のめぐちゃんは、今も鮮明に息づいている。

いつかまた

めぐちゃんと再開した時には、お手紙を見ながらいっぱいおしゃべりしよう。

ようやく

めぐちゃんの大好きなひまわりの咲き誇る夏が来た。

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