音楽劇「キセキ―あの日のソビト―」ライブ配信観劇記録

あくまで個人の感想です。
ネタバレありで感想をまとめるので、ライブ配信未視聴の方やまだ観劇されていない方は閲覧お気を付けください。

映画版未視聴。
GReeeeNは、音楽は知ってるけどメンバーについては覆面で歯科医師という基本情報くらいしか存じ上げていません。


ライブ配信回:10月23日(土)18時公演

公演日程
10月22日(金)~11月7日(日)@紀伊国屋サザンシアター TAKASHIMAYA
11月11日(木)~11月12日(金)@COOL JAPAN OSAKA WWホール

キャスト
JIN役  :崎山つばさ
HIDE役   :立石俊樹
navi役 :太田将熙
92役    :岸本勇太
SOH役 :里中将道
売野役 :大石敦士
結衣役    :朝倉ふゆな
珠美役    :遠山景織子
誠一役    :羽場裕一
ダンサー(五十音順):荒川湧太、宇田川太雅、加藤木風舞、武中隆之介

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「まさかこんなに泣くことになろうとは…」

『音楽劇キセキ―あの日のソビト―』のライブ配信を見終わった瞬間の私の感想はそれだった。
人気ボーカルグループGReeeeNの結成秘話をベースにした今作は、芝居あり、生歌あり、生バンド演奏ありと実に盛りだくさんな内容だ。
情報解禁があった際、過去に映画化もされたという記事を見かけた。
映画を見てしまうとそちらに感想が引っ張られそうだったので、とりあえずあらすじだけ把握して公演に備えるようにした。

有難いことに最近はライブ配信をしてくれるので、観劇予定の大阪公演前に東京公演の配信が有ったらいいなと期待していた。
公式さんから配信決定の際は、めちゃめちゃ嬉しかった。

この舞台は、GReeeeN結成秘話をベースにした物語であるが、兄JINと弟HIDEの兄弟の物語でもある様に思う。
物語の冒頭、浪人生として医大の受験に挑むも2浪目が決まってしまった弟HIDEに対して、レコード会社から声をかけられメジャーデビューの夢へと動き出した兄JIN。
厳格な外科医師の父から医者になることを求められ、それになんとか応えようとするHIDEに対して、「音楽なんでガキの遊びだ」とどれだけ否定されようとも自分の好きな音楽を仕事にしようとするJINの対比から物語は始まっていく。
この時、この兄弟の未来は兄の方が輝いているように見えた。

けれど、現実はそれほど甘くはない。
兄弟の明暗はここから徐々に入れ替わっていく。
どれだけ曲を作り直してもプロデューサーの売野からは色よい返事がもらえない。
しかも、「グルーブが」とか「もっとポップな感じで」とオーダーがいちいち分かりずらい。
曲作りを巡ってバンドメンバーとはどんどん険悪になっていく。
そして、我慢の限界が来たJINは売野のことを殴ってしまい、メンバーはバンドを去っていく。

レコード会社から声がかけられた時、JINの目の前にはメジャーデビューと言う夢が燦然と輝いていた。
けれど、今のJINは失意のどん底にいる。
そんな時、落としたスマホから流れたのは、歯学部に合格して大学で知り合った仲間と音楽活動を始めた弟HIDEから聞いてみてと無理やり送られた曲だった。
その曲は、打ちひしがれているJINに追い打ちをかけるのに十分だった。
弟たちが作った曲は、自分がどんなに頑張っても生み出すことが出来ないものだ。
ずっとひたむきに音楽と向き合ってきたJINだからこそ気づいてしまった。
まさにそれは絶望だった。
「あー…‼ クソッ‼」と叫んだ声は絶望だった。
と同時に、ずっと暗闇の中にいたJINにとって希望の光でもあった。

私は、この音楽劇キセキは色んな世代の人に刺さる作品だと思っている。
今、夢に向かって進もうとしている人達には、キラキラとしたHIDE達4人の様子が、自分と重なり、背中を押してくれているかもしれない。
子どもの幸せを願う親世代はJINとHIDE兄弟の両親のやり取りが、我が事の様に思えるだろう。
そして、夢破れて人生の挫折を経験した人には、JINの切なる叫びが胸に迫ってくる。
私は自分の心情的にJINの言葉により共感する部分が強く、見終わって「これはJINさんの絶望と再生の物語だ」という印象が強く残った。
JINを演じる崎山くんのお芝居に引き込まれてより感情移入したこともあるが、後半にかけて特にボロ泣きだったのは、JINさんの言葉に共感し、挫折から立ち直っていく姿を見て、無意識に自分の人生を重ねていたからかもしれない。

現実に打ちのめされて、でも希望を見つけた後のJINは自分の為ではなく、弟たちの音楽を多くの人に届けるために変わっていく。
殴りつけた売野に頭を下げ、なんとか曲を聞いてもらうように頼み込む。
仲の悪い父親の元へも弟に音楽をやらせて欲しいと頭を下げに行く。
それまで「自分が」「自分が」となっていたJINがプロデューサーとして成長していく姿がありありと伝わってくる。

デビュー曲の制作中、HIDEとJINの間に歌詞を巡って、意見が対立する場面があった。
売れる曲の為に、歌詞を変えた方がいいというJINに対して「夢見せなくてどうするんだよ」と返すHIDE。
ここのやり取りを見ていて、「あぁ…これがJINさんとHIDEくんの違いだったのかな」って思ってしまった。
音楽を聞いている側は「夢が見たい」のだ。希望だったり、勇気だったりを時として音楽に求めている。HIDEの歌詞はそういう人たちに力を与えてくれる。
そこにこだわれるかどうかが、プロになれるかどうかの違いだったのかもしれない。
割と色んなことに柔軟に対応しているように見えるHIDEだけど、頑固な面もあるんだなと思ったシーンでもあった。

大きなタイアップとメンバーの追試が被った時、メンバーとJINの間で大きな亀裂が生じようとしていた。
音楽を目指している人間からすれば、JINの言っていることが正しい。
けれど、歯科医を目指して大学に進学した4人の葛藤も間違いではない。
夢と現実はどちらか一つした選ぶことは出来ない。
そう思っていた4人はJINよりももっと現実を見ていたように思う。

目の前のチャンスを掴もうとしない弟に対して
「なんでそんなに簡単に諦められるんだ」
という兄。
その言葉に対して
「なんで俺ばっかかまうんだよ‼ 兄ちゃんの夢に俺達を巻き込むなよ‼」
と返した弟。
この言葉、すっごい双方にとって重い言葉だなって思ってしまう。

自分の本心を隠そうとするJINに対して、「ただ言い合って終わりたくない」というHIDE。
その言葉で初めて自分の気持ちを吐き出したJINの叫びが本当に胸に迫ってきた。(書いている今も思い出して目頭が熱くなってくる)
絶対に言いたくなかったはずだ。自分が見せたくないと思っていた部分のはずだ。
バンドの解散。
GReeeeNの歌が認められたことに対する悔しさ。
けれど、絶望の中にあって、それでも「音楽を続けたい」と立ち上がれたのは他でもないGReeeeNの曲だったこと。
GReeeeNのファン第1号は自分だ。自分と組むのが嫌なら組まなくてもいいから音楽は続けて欲しいというJINの言葉はHIDE達4人の心に響いた。

「両方やる」
そう決めたメンバー4人の顔はしがらみが吹っ切れ、決意を新たにしっかりと未来を見据えているように見えた。

追試と曲の納期がどっかぶりでも、5人でどうにかするぞと「キセキ巻き起こすぞー‼」と円陣を組んで流れる「キセキ」。構成神か‼
そこからEDになだれ込んでいくのだが、最後メンバー4人が白衣に身を包みマイクを持って歌っている姿が、「両方やる」を達成していることを示していて、いい終わり方だなって感心した。

本当に音楽劇の醍醐味だなと思うのが、要所要所で生バンドの演奏による生歌が始まる点だが、OPとEDが最高だった。
なんて贅沢な時間を過ごしているんだろうと思わずにはいられない。
劇中でもライブパートやカラオケ、歌錬パートで生歌&生演奏が聴けるのはなかなかない。
ダム錬に出掛ける前のバラバラだったハモリも実はスキルが無いとわざと外せないから本当に凄いなと思いながら聞いていた。
歌が始まった瞬間に、劇場はライブ会場に変わる。
声を出すことは出来ないけど、手拍子や手振りで音楽を共有することが出来る。
許されるのなら、ペンライトを振りたいと思ってしまうくらい本当に楽しい時間が押し寄せてくる。
そのバランスが絶妙で作品全体の緩急が素晴らしい。
できれば、舞台版でアルバム出して欲しいって心から思ってる。

父親と対する時、兄弟はいつも正座して敬語で話していた。
でも、最後の音楽合宿に出掛ける場面で、敬語は敬語のままだけど、正座はせずにきちんと相対している父子にわだかまりが消えつつあるのを感じる。
ちゃんとお互いがお互いに向き合えるようになったのかなと思うし、JINが深々と頭を下げていたのが印象的だった。

兄弟の父親役の羽場さんは、テレビドラマなどでお顔を存じ上げていた役者さんだったので、そんな大御所さんと推しが共演するのにめちゃめちゃビックリした。
この物語において、厳格な父は絶対でお父様の存在が物語の肝になっている。
息子たちには人の役に立つ人間になって欲しいと願う父。
息子たちと同年代の担当患者に対しては、とてもやさし気な表情を見せる優秀な外科医。
お父様のセリフって、所謂会社員とか固定給が出る仕事以外に就こうとしている人が必ず一度は投げかけられる言葉でもあるので、羽場さんのお父様の圧がほんとに素晴らしかった。

GReeeeNのメンバーの中だとSOH役の里中くんのお芝居のとても好感をもった。
SOHは朴訥とした印象があるが、とても素直で自分の気持ちをストレートに伝えることが出来る青年だ。
だから、初めて曲が出来上がって「ライブをやってみたい」といった言葉や実際にライブを前にして「こんな気持ちをくれてありがとう」とHIDEに伝える様子が見ていて本当に微笑ましい。
追試とタイアップがどっかぶりした時も「自分が心からやりたいと思ったことは初めてだった」と、自分の心情を吐露することで、メンバーの中に共感が生まれ、両立に向けて動き出したように思う。
口下手だけど必死に自分の気持ちを伝えようとするSOHを演じる里中くんの好演が光る。
エーステのリョウや生執事のブルーアー先輩と系統が全く違う役を演じているので、お芝居の幅が広い役者さんだなと感心し切りだった。

さてさて、ようやく推しの感想を書いていこう。
今回もとても新鮮な気持ちをもらった観劇だった。
今回の役は、今までとまた印象が異なる役柄で、弟らしさと言うか可愛らしさが前面に出ていたように思う。
無邪気と言うか、人懐っこいと言うか。
今まで見てきた舞台作品では、【カッコよさ】が前面に押し出されていることが多かったが、今回は友達とはしゃいでみたり、兄弟げんかをしてみたりと、メンバーを引っ張っていく側ではあるんだけど、兄がいるので甘え方を知っているというか、あまり立石くんから感じない弟感が垣間見えて、こういう感じも出来るんだと新たな発見があって楽しかった。
インタビューでも「忘れていた弟感を引っ張り出してきた」といったお話をされていたので、なるほどこれが弟感かと新たな一面を見た気がした。

歌が上手いのは言わずもがなだけど、カラオケだったり、ライブだったりと色んなパターンの歌を聞けるのは、立石くんの歌声を余すことなく堪能することができるので、めちゃめちゃ楽しい。
何より、板の上に立っている姿が本当に楽しそうで、その姿を見ているだけでこちらも嬉しくなってくる。

去年の自粛期間中、割と短いスパンでインスタライブでとしペラ(アカペラ)をしてくれて、最後の時に今までの人生の折々で聞いてきた曲を思い出と一緒に紹介をしてくれていたことがあったのだが、そこにGReeeeNのキセキも含まれていた。
だから、この舞台の情報解禁があった時に「マジか‼」って1人でこのとてつもない巡りあわせに運命めいたものを感じてテンションが上がった私がいた。
公式YouTubeで立石くん達4人が歌うキセキのPVが公開されているが、延々聞いていられる。
ミュージカルだけではなく音楽劇も立石くんと相性がいいなと思ったし、立石くんのお陰で今まで触れて来なった形態の舞台に出会うことが出来てすごく楽しいし、嬉しい。


私は舞台を観るにあたって自分の中で「いい舞台」と思う感想の基準が一つあって、それは「一番の感想が推し以外であること」だったりする。
推しにしか目がいかないというのは、推ししか見るものが無かったことと同義である。
そうではなく、要所要所で推しに対する感想は持つが、見終わった時の感想が作品全体に対しての物だった時に、「あぁ…いいもの観たな」と幸福感に包まれることが多いからだ。
今回の『音楽劇キセキ―あの日のソビト―』はまさしくそれで、ここ最近観劇した舞台でこんなに泣いたことあった?
って思うレベルで号泣したし、見終わった時の多幸感がすごかった。
事前にあらすじの確認だけにしていたのも良かったのかもしれない。

私は今この舞台を実際に見に行ける機会があることが本当に嬉しい。
どうかどうか無事に東京公演を完走して、大阪公演の幕が上がることを願うばかりである。
公式さんのツイートを見る限り、現在公演中の東京公演では当日券の発売もされているようなので、見るかどうか迷っている人には声を大にしてお勧めしたいし、劇場に行けない人には11/12のマチソワがそれぞれ1週間のアーカイブ付きで配信が予定されるので、是非そちらで見てもらいたい。
ここにきて私個人的には今年一番の作品に躍り出たので、全力でおススメしたいと思う。


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