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美しさ・切なさ・儚さ@三溪園観月会

カラオケも嫌いだし、皆でがやがやお話しするのも苦手だし、歌舞伎は好きでたまに見に行くけれども解説が無いと意味も分からず、昔山田流筝の奥免状を取得した程度の知識と技術しかない私ですが、薩摩琵琶の荒井先生とお知り合いになってから演奏会に時折出かけています。今回は毎年恒例の三溪園観月会にで演奏されるというのでとても楽しみにしていました。

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ご挨拶と曲の紹介は荒井姿水先生。はい、ご存知の方も多いと思いますが故樹木希林さんの妹さんです。

琵琶って本当に不思議で、演奏前にあらすじを教えていただくのですが、それを聞いているせいか,例えば「五月雨富士」(曽我五郎十郎の仇討)だったら「天つ風」(いわゆる神風ですね)が吹くところで本当に風がさあっと吹いてきたり、「俊寛」では打ち寄せる波や船の盧を漕ぐ音が聞こえたりするんですよ。

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こちらは荒井靖水先生。姿水先生のご子息にあたります。今回はジャズやご自身が作曲されたものを中心に演奏されていましたが、実は靖水先生もすごくて、数年前に神田外語大学の講堂で平家物語の壇ノ浦を目を閉じて聞いた際には真っ黒な夜の海面に月の光が波頭にあたっている様子がさあっと広がったのにはびっくり。プロってそういうものなのですね。

野外ということもあり、感染症拡大下においても昨年も実施(私は仕事で参加断念でしたが)したくらいだから・・と今年は大学同窓の先輩数名にお声掛けをして、ホテルニューグランドの午後のお茶に集合、そのまま4名でタクシーで向かい現地でまた4名と合流し合計8名での参加でした。

演奏は本当に素晴らしく・・っていうよりも、私にとってはむしろ神憑り的な時間が過ぎていき、終了して靖水先生に挨拶をしてから庭を散策がてら帰ろうとしたタイミングに、ちょうど月が顔を出しました。

「月がきれいですね」を ”I Love You" と訳したのは夏目漱石だったと思うけれど、ここ6年間本当に楽しい事も辛い事も一緒に頑張って乗り越えてきたちび子が渡米して残された私、月を見ながら年長の友人達と歩いている際に、一緒にいる筈のちび子がいない事が実感として押し寄せてきました。「月がきれいだったよ」という言葉を英訳するとすると ”I Miss You"になるんでしょうね、きっと。

 機会があったら荒井先生に改めて聞いてみようと思いますが、時代の折々に起こった出来事を語り続けてきた琵琶がここまで伝わってきたのは、起きてしまった事の悼みを人々に共有しているから、そしてその事によって傷ついた社会を癒すという役割を果たしているからなのではないでしょうか。戦国時代の討死や仇討話などを通して、現代社会の我々も生活の中で時として不本意に被る不幸から立ち直る為に必要としているものなのかもしれません。

子供の巣立ちという本来幸せな人生のイベントなのに、そのせいでこの夏は惨憺たる状態であった私ですが、この夜、琵琶と謡を聞きながら自分が本当に辛い思いをしていたんだな、と気が付きました。

こちらは Fly me to the MoonのJazz版です。実は当日靖水先生が電子ピアノと琵琶で協奏されたのですが、さすがにそれはYOUTUBEにもなかったのでこちらで代用 :)https://youtu.be/XVXeBz0u5pw

#三溪園観月会 #薩摩琵琶 #月がきれいですね #喪失 #傷みと癒し


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