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ここ数カ月で聞いていたもの

文章最後の「★」は最大4つの、アメリカの新聞方式

Lady Gaga - Joanne:このひとが5年前に出した「Born This Way」は、終始アッパーでバタバタした曲の連発が、強引なインパクトを与えてくれて、それがかなり心地良かったのであんときゃ随分と元気を与えてもらったものだが、今回は豪華なゲスト勢にも関わらず、かなり抑えた雰囲気の、飾りっけのない作風。「Sinner's Prayer」や「Angel Down」のようにそれが巧く作用している印象的な曲も有れば、地味すぎて聞き流してしまう曲も目立つ。Slantのレビューで「...while she may have eschewed the outlandish costumes for now, Gaga has merely replaced them with a different kind of pretense.(彼女がかつての異様なコスプレぶりを自粛した一方で、現在の見た目でそれらを補ったとは正直、言い難い)」と書かれていたのが、マトを得ている。アーティストとして前進したのが窺える一方、アデルと違い、このままジェイムズ・コーデンの車内カラオケ企画の一員に、との微妙さを抱えている気がせんでもない。(★★)

Ariana Grande - Dangerous Woman
 昨年の夏ごろにこのひと、LAの南東側に位置するローカルのドーナツ屋「Wolfee Donuts」で汚い言葉を店員に向かって吐いた映像をTMZにスッパ抜かれて炎上したのだが、そこからすぐにツイッターで謝罪し、今年に入ってからはサタデーナイトライブ出演でそれすらもネタにするといった逞しい姿を披露。
 個人的にその対処の巧さと決して慢心しない所で、好感度が一気に上がったが、そうした絶妙のタイミングで5月20日に出たこの3作目、地味なオープニングに続いて壮大さを伴ったミドル・テンポの表題曲が流れた辺りから、全く予想だにしてなかったほど私好みで、年内に出たアルバムでは一番聞いていると思う。
 大人びた雰囲気に統一された歌詞・曲調がいずれも丁寧に作り込まれておりじっくり聞ける反面、前作よりも軽めの曲が少ないので聞き始めは地味に感じるかもしれないが、繰り返し聴いているうちに馴染んでくるアルバムの典型だ。もっとも中盤に「Greedy」といったアップテンポの曲もちゃんと用意されているので、全体の流れに平坦さは感じない。
 作詞作曲に関わってる人数も膨大で、20台前半で世界的に有名になったのと引き換えに、常にゴシップに狙われる本人の現状を見据えた上で、それすらも風刺した歌詞が目立つのがまた、面白い。勿論アリアナ本人の歌声も、どの曲でも綺麗な伸びを響かせていて、それが第一の聞き所にしっかり成っている。
 大手テレビ放送局CBS傘下にある、プロとアマチュアが同時参加できる老舗の娯楽批評サイト「メタクリティック(Metacritic)」においても、批評家からも好評なだけでなく、ユーザーからの満足度が非常に高い辺り、ファンが望んでいた通りの場所に着地した感があるし、多分このアルバムが、ひとつの基準になると思う。本作に関連した各種深夜トーク番組出演も器用にこなしていたし、まだ当分は天下が続くだろうね。(★★★★)


Tove Lo - Lady Wood:シングル曲「Habits(Stay High)」2014年の秋ぐらいからコッチでも異様に当たり始めてアーティスト名の認知度が一気に上がり(I eat my dinner in my bathtub / Then I go to sex clubs / Watching freaky people gettin' it on / It doesn't make me nervousという出だしが特にウケてた)、ラジオ番組やトークショーに呼ばれたりと大忙しの人となったトーヴ・ローだが、スウェーデンの若手ミュージシャン(1987年生まれ)でこれだけアメリカでも当たったのは久々だと、確かに思う。よってアメリカでは、かなり注目を浴びての2作目。ピッチフォークの記事でも冒頭で指摘されているようにリード曲の「Cool Girl」は「Gone Girl」のサイコ女から大いにヒントを得たとの事で、このまま中途半端に映画かぶれの気取った感じになったらヤダなあ、と若干身構えてはいたが、歌詞から漂う自傷癖はさらに強くなったものの、楽曲的には、表向き煌びやかながら根っこで陰鬱な妖気を放ったシンセ・ポップに、完全統一されていて驚いた。わざわざイントロを設けて、アルバムの前半と後半で二部構成にしているのも面白いし、特に9曲目「Imaginary Friend」以降の盛り上がりが素晴らしい。仄かな光に当てられた、ジャンキーとホームレスだらけの汚い路地裏を、終始安全運転で進むかのようなノリで、このクセにハマると心身共に、気持ちのいい「泥沼感」を味わえる。聞き手をかなり選ぶ方向性を明確に打ち出しているがゆえに、私は非常に気に入った一方、受け手によっては全否定でも不思議じゃない。(★★★1/2)

Deathspell Omega - The Synarchy of Molten Bones:6年ぶり、4曲29分であっても、前作で発散させた、殺気を一直線に放ってくるような、露骨に攻撃的な方向性にはブレが一切ない。急降下で猛突進する場面だけでなく、邪神教徒を先導するような禍々しい「引き」も一応は設けられているが、壮大で邪悪なムード一辺倒だった頃とはかなり様相が変わってきている。前作「Paracletus」でやっていた事をさらに短く煮詰めてきた感じで、十分に経験を積んでいないプレイヤーが対峙した瞬間に全身の血液を凝固させられて即死モノな上級悪魔、みたいな存在感を発散させた今のデススペル・オメガの方が私は好きなので、当然こっちも気に入った。(★★★)

M83 - Junk:個人的に、2011年にこのアーティスト(バンド名を冠している、実際はアンソニー・ゴンザレスというフランス人によるユニット)が出した「Hurry Up, We're Dreaming」のあまりの内容の濃さに圧倒されたのもあって、4月に出たこれを聞いた時のガッカリ感はハンパじゃなかった。'80年代を席巻したシンセ・ポップスへの傾倒がより極端になったものの、前作の要所で発散させていた悲壮感や物悲しさ、壮大さをここまで気持ちよく捨て去るものかというか、タイトルやコンセプト、ジャケも含めて、あんたこないだまで暗い表情で自殺癖あったのにいきなりマックのハッピーセットで満面の笑みで大喜びするようになったんかい!との(ジャケに映る)ムックの偽物的な思いが、頭の中をもうそれはよぎるの何の。しかしながら、ラストで飛び出す「Sunday Night 1987」のように、従来のメランコリックさを保った曲も少なくは無いので、歯痒さは覚えつつも何だかんだで楽しんだ。(★★)

Insomnium - Winter's Gate:フィンランドの学生街ヨエンスー(Joensuu)をホームベースに、定期的にヨーロッパを廻りながら、もはやこの手のヘビーメタルバンドの中では中堅と言ってもいいぐらいのキャリアを積んでいるひとたちだが、メンバーが1980年前後の生まれなので、10代の頃に地元発祥の抒情的デスメタルの流行にモロに乗っていたのは、想像に難くない。初期の頃からこのバンドはそういった音楽性ではあったが、リアルタイムで北欧のアンダーグラウンドな音楽を聞き続けた本人たちの愛情やトリビュートが、今回は完全開花というか、お伽噺や伝承の数が計り知れないあの大陸に住む人間にしか作り上げられない、暗く厳か且つ、劇的で禍々しい、一大叙事詩を40分にも渡って紡いでいる。1曲を7分割したフォーマットではあれ、互いの曲は華麗に連結していくから、最初からこの世界観(闇しか訪れない北欧への独り旅)に浸る姿勢であれば、聴き所の宝庫だ。私も当然、1993年ぐらいからオモテに出始めた、北欧発を中心としたメロディック・デスメタルの流れを存分に楽しんだものだが、あれらのバンドは別にそういう音楽性を決め打ちしていたわけではなく、試行錯誤の果てにたまたまそうなったから面白いわけで、目的と手段が完全に逆転しているインソムニウムには正直、今回ので一層疑問が深まるだけだった。(★1/2)