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「手前みそ」について知ろう


「手前みそ」の基本をわかりやすくまとめました。
「手前みそ」の意味や味見するタイミングとなる、「みそ開き」についてもご紹介しています。

「手前みそ」とは?

つくり手・家ごとの自家製のおみそのこと。
手前(てまえ)とは「自家製」「自前」、また一人称の「自分」の意味となります。

昔はそれぞれの家ごとに、自家製のみそをつくっていました。


手前みそを丸めて、樽に詰める前
整列している様子も、なんだかとっても可愛いです

みその原材料は、大豆麹(こうじ)食塩でできていてとてもシンプルです。

「手前みそ」は、大豆や麹、塩などの原材料の種類や配合、発酵・熟成させる期間、微生物が働く気候や風土、作り手などの条件が複雑にかかわりあうことで、ユニークでオリジナルの味ができあがります。

世界にひとつだけの、手前みそです。


火入れをする前の乾燥大豆

「手前みそながら…」という意味は

「手前(私のところ)の"みそ"がおいしくできたから食べてみて」と自慢したのが由来と言われています。
現代では「自分で自分のことを褒める、誇ること」、「自慢するというよりも、へりくだりながらも誇りを持つこと」という意味としても使われています。

毎日忙しく過ごす中でも、振り返る時間をもうけて、たまには自分を褒めてあげることも大切です。そんな時間としても、ぜひ「手前みそ」を仕込んでみてください。

塩と麹を混ぜている様子(塩切り麹)

「みそ開き」とは?

「手前みそ」が美味しく出来上がったどうか、蓋を開けて確認することを、みそ開きと言います。

みそ蔵さんのキットごとに、みそ開きのやり方が異なります。
仕込み先の蔵元さんに確認してみましょう。

小泉麹屋さんのキットの場合(カビ防止として、塩を振らずにラップのみで対応)

手順としては、
 1)ふた&ラップ(重石)をとる
 2)表面にある白いもの(産膜酵母)や、かびが生えていればとる
 3)一度上下よく混ぜてから、味見をしてみる
 4)好みの味であれば完成!

好みの味に出来上がり、そのままの味で発酵・熟成を進めたくない場合は、冷蔵庫もしくは冷凍庫へ。
もう少し発酵・熟成を進めたい場合は、ふたたびラップをして常温保管しましょう。
半分冷蔵庫、半分は常温保管でもう少し熟成をすすめてみても、違いを楽しめます。

蓋をあけたら表面にカビが…なんてこともあるかもしれません。
表面にある白っぽいものは、産膜酵母(さんまくこうぼ)です。みその発酵に必要な酵母のひとつで、食べられますが風味を損ねることもあるため、取り除いてもよいでしょう。

出来上がりの様子(例)
左斜め上に、白いポツッとしたものがあります
産膜酵母です


表面ではなく、樽の側面(透明の入れ物だと見えることがあります)にある白っぽいつぶは、アミノ酸が結晶したものです。そのまま食べても問題ありませんが、気になる場合は取り除いてください。

緑など色がついたカビが蓋をあけて表面についていた場合は、必ずスプーンで1~2センチほど取り除きましょう

個人的な経験談ではありますが、清潔な手や道具でみそを仕込み、ラップを貼るなどカビ対策をし、蓋や樽の縁や内側、外側も綺麗に拭いて保管した場合、赤色や青色のカビが大量に生えてしまった!なんてことは、ほとんどありませんでした。

ちなみにこちらはみそ開きをした後に、表面にカビ対策をしないまま(ラップをかけないまま)しばらく常温保管してしまったケースの写真です。表面に少しカビが生えていました。このような場合は、食べる前に必ずカビを取り除くようにしましょう。

上記のような色がついているカビは取り除きましょう


「手前みそ」が完成したら、みんなでお祝いしても

発祥は定かではありませんが、室町時代から戦国時代では下級武士たちで「汁講」こと、みそ汁懇親会が行われていたそうです。

招待した亭主が自家製のみそ汁などの「汁」を用意し、客人がご飯やお酒を持参して、鍋を囲みながら「汁かけ飯」などにして食べていたとのこと。

汁の具材は、その時手に入る野菜などを入れていたそうです。
下級武士だけでなく、公家たちの間でも「汁講」は行われていました。
みそ汁の鍋を囲んで酒を交わす宴、なんだかとても楽しそうですよね。

みそ汁かけご飯
(※)みそ健康づくり委員会 提供


「手前みそ」も「汁講」も、老若男女問わず、みそで繋がれるコミュニケーション。


仕込んだおみそが出来上がる頃に、みそ汁懇親会こと現代版「汁講」を復活してみても面白そうです。

「手前みそ」が美味しく出来上がったかどうか、みそ開きで確認する際は、ぜひミソレーヌーボーと称して、みんなでみそ汁で乾杯しても楽しいですよ。

老若男女問わず楽しめる、手前みそ仕込み
みんなで仕込んでも、楽しいですよね
外で食べるみそ汁も
最高に美味しいです





参考文献

 飯田一太郎、飯田重次郎 「手前味噌の味噌づくり」 雄鶏社 1991年
 一島英治 「日本の国菌」 東北大学出版 2017年
 石村眞一 編 「自家製味噌のすすめ」 雄山閣 2009年
 川村渉 「日本の食文化大系 第十巻 味噌醤油の百科」 東京書房社
 1986年
 小泉武夫 「醤油・味噌・酢はすごい」 中公新書 2016年
 河野友美 「味のからくり」 光生館 1967年
 河野友美 「新版 おいしさの科学 味を良くする科学」 旭屋出版 2008年
 佐多正行 「週末手づくり入門 おばあちゃんの味」 総合科学出版 2012年
 全国味噌工業協同組合連合会、社団法人中央味噌研究所 「みそ文化誌」 2001年
 一般社団法人 東京味噌会館 「みそを学ぶ 世界に誇る伝統発酵食品」第三版 2016年
 辻嘉一 「味噌汁 三百六十五日」 婦人画報社 1976年
 辻田紀代志 「手づくりみそ自慢」 創森社 1996年
 永田十蔵 「誰でもできる 手づくり味噌」 農文協 2008年
 永山久夫 「武士のメシ」 宝島社 2012年
 永山久夫 「歴史ごはん」 くもん出版 2020年
 みそ健康づくり委員会 「新みそを知る」 2023年1月 第6版 
 山本泰、田中秀夫 共著 「改訂5版 味噌・醤油入門」 2013年 日本食糧新聞社
 吉田元 編 「日本の食文化5 酒と調味料、保存食」 吉川弘文館 2019年 
 渡邊敦光 監修 「味噌大全」 東京堂出版 2018年
 
 

(※)挿絵 みそ健康づくり委員会 提供


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