見出し画像

【小説レビュー】『かがみの孤城』辻村深月

最近ちょっと古い名作に読書が偏っている気がしたので、最近の本を読んでみようと思って手に取った。一般小説だと思っていたけど児童文学だった(この本がどうカテゴライズされているのかは知らないけど、内容は完全に児童文学だった)ので、ちょっと思ってたのと違ったなぁという気がしてしまった。

中学に上がってすぐに不登校になってしまった女の子が、ファンタジーの世界で友情を育む物語だ。ファンタジーの世界には似たような年齢の子たちが7人集められ、それぞれ現実世界で事情を抱えた子たちが少しずつ仲良くなっていく。主人公の心の動きが丁寧に描かれていて、多くの人が社会に対する生きづらさを感じている今、多くの人が共感できて救いになるような小説だと思う。
この本には共感できる感情が詰まっている。変な他人から拒絶される辛さや話が通じない絶望、親への申し訳なさや苛立ち、仲良くできそうだと思った人の悪い面を見てしまった時の戸惑い、みんなが当たり前にできる事が自分だけできない憂鬱。私はもう年を食って、そういうものと折り合いをつけて生きているので直接的には刺さってこなかったけど、きっとその渦中にいる子どもたちにとって、この本は大きな助けになるだろう。そういう息苦しさを感じているのが自分だけじゃない安心感や、どこかに逃げ場があるという希望を感じられる。

この本が描くミステリーについては、個人的にはあまりハマらなかった。まず、ファンタジー世界に用意された城の中でカギを探すゲームを、登場人物たちがほとんどしないのが不思議だった。このカギ探しを各自が家探ししただけで諦め、ヒントに飛びつくわけでもなく、最後の最後にしか動きがなかったのが残念だった。もちろん、葛藤を生む要素としては機能していたけど、カギ探しってそれだけじゃないもっとドキドキワクワクをつい期待してしまう。
カギ探しは、この本のミステリーの本流ではないのかもしれない。でも、おそらくこの本のメインであろう仕掛けについてはわりと早い段階から見当がついていて、半分まで読む頃には確証を得て、後半は答え合わせをするだけみたいな読み方になってしまった。物語の中で全てが明らかなった後のエピソードについてはさすがに全ては見通せていなかったけど、個人的にはそこまでゴリゴリ全てを繋ぎ合わせなくてもいいんだけどな……と思ってしまう。まあ、あれを気持ち良いと思う読者もたくさんいるのだろうし、好みの問題だ。私が、文体も内容も奔放で全てが手の届く範囲には収まらない小説を好むというだけの話だ。

一つだけ、共感しにくい部分がある。この本のテーマみたいに繰り返されるシチュエーションだ。転入生がやって来て、みんなの憧れを集める特別なその子が、自分を一番に選んでくれるという妄想だ。それが奇跡として、強烈に憧れを覚えるシチュエーションとして語られる事が不思議なのだ。
もちろん、みんなの憧れを集めるような特別な人はいるし、その人と特別な繋がりがある事で上手くいく事はある。それはわかるし、事実その恩恵を受けた経験もある。でも、これが息苦しい日々を送る人たちに共通する一番の憧れみたいなシチュエーションである事が不思議なのだ。みんな自分にはもう全く期待していないの?特別な誰かのおかげで他人に羨ましがられたいの?と、自分主体じゃない感じに勿体なさを感じてしまった。

『かがみの孤城』辻村深月 2.5

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?