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【小説レビュー】食堂かたつむり

かなり賛否が分かれそうな小説だけど、個人的にはあまり好みじゃなかった。ただ、なんとなく他の人が良いと思った点にも悪いと思った点にも完全には共感できないような、ちょっと不思議な本だ。

恋人に捨てられてすっからかんになった女性が、実家のある田舎に戻って食堂を始める物語。
この本は冒頭、同棲中の恋人が家財の全てを持って姿を消した所から始まるのだけど、それを「捨てられた」と決定づけて即座に田舎に帰ってしまう事に、まずちょっとついて行けなかった。本当に捨てられたと確信できるだけの材料を与えられていない感じがした。なので、捨てられたように見せかけておいてその後何かがあるパターン(例えば恋人がまた接触してくるとか)なのか、それとも後からゆっくり説明してくれるパターンなのかと思いながら読んでいたけど、本当に冒頭の描写だけで恋人との関係は終わっていた。何というか、描写については過不足なくきれいに情報が並んでいると読みやすいという印象を受けると思うが、個人的には書いて欲しい事を書き足りなかったり、不要な事をくどくど説明されたり、ちぐはぐな感じがした。読みやすいというレビューも多いので、これは好みの問題で私が合わなかっただけだと思うが。

それと、この本を「ほっこり」と表現する事にも違和感を覚える。確かに、自然の恵みに囲まれて、それを食材に心を込めて料理を作る女性のシェフなんて、いかにもナチュラルでオーガニックでほっこり路線ではある。けど、わりと頻繁に性的な例えや表現が出てくるし、この本がほっこりと心温まるようなものを狙って書かれたとは思えない事はかなり最初の段階から見える。少なくとも、子どもに読ませようとは思わない本だ。そういうキレイなものは狙っていない。
だから終盤にちょっとグロい事が起こった時も、今までチラチラと爪が見えていただけの獣が牙をむいてきたような感覚があった。何かあるだろうと思っていたら、これか……みたいな。ほっこり本だと思って読んでいた人は裏切られたと感じただろう。賛否の否の感想はここに集中している気がする。でも、個人的にはそこまで強い拒否反応はなかった。この本には共感できない部分が多くて、その一つという程度だった。
ただ、読み終えて尚ほっこり本だという感想を持つ人がいることは、理解に苦しむ。

全体的に人との繋がりが薄くて、掘り下げられていないのに人との繋がりで感動させるような作りになっていたのも不満だった。料理の描写がメインなのだけど、あまり美味しそうだとも感じない。みんなが評価している部分が合わないし、みんなが評価していない部分にも嫌悪感を感じていないし、なんだか不思議な本だったなぁという印象だ。

『食堂かたつむり』 2.5

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