マガジンのカバー画像

弓張月の御息所

86
大人のためのお伽話、こころの奥底にしまっていた胸のトキメキを美しい言葉で綴ります❤️
運営しているクリエイター

2022年6月の記事一覧

プアゾン

プアゾン

それは「毒」という名がついた香水
詩人 ポール ヴァレリーは
「香りは心の毒である」と詠った

プラム、バニラ、コリアンダー、アニス、ジャスミン、白檀、紫檀、月下香、、シナモン etc・・・
様々な成分を絶妙にブレンドさせたというこの香水は、元のそれぞれの香りを想わせる気配は微塵もない

爽やかなバニラが似合う恋もした
耐え忍ぶ月下香のような別れも味わった
白檀の香りが似合う淫靡な遊びもしてみた

もっとみる
折りたたみ傘

折りたたみ傘

学生時代、傘は持たないことに決めていた
私は「晴れ女」だから
あなたにここぞという時にピカピカのお天道様ををプレゼントできる
そんな女神でいたかった

彼は私と違ってとても慎重
ディバッグの中に必ずしのばせてあるのは折り畳み傘

ふいの夕立でも
自分の役割は心得ていると言わんばかりに
手品師のように傘を取り出して
傘を差し向けてくれる
少し小さめの空間に
肩を掴まれてすっぽり収まる
そんな儀式がた

もっとみる
葉脈

葉脈

激しい雨音で世界が遮断されたような
昼下がりの午後
貴方のことを想いながら
考え事をするには十分だった

「ダ・イ・ス・キ」
一つ一つの言葉を
舌の上で転がしてみるの

囁くようにつぶやけば
漏らす息と共に
甘さだけが耳元に残る

溢れ止まないこの想いを
葉っぱの上できらめく水滴のように
葉脈を辿って集めては
一気に飲み干してしまいたい

首筋をそっと指でなぞれば
喉元は大きくゴクリと喉を鳴らした

もっとみる
「白い薔薇の物語」

「白い薔薇の物語」

今思い出しても、切なさで胸が少し傷むのですが
人を想うことに臆病になった時がありました

心に何重もシールドを張り「攻撃は最大の防御」だと
哀しみを忘れるために心に蓋をして
友と会えばふざけることですべてを笑いとばし、あたりさわりのない会話で今日を一日やり過ごしていた

バイトを7つ掛け持ちし
心が危うく流れ出してしまわないよう
作業で時間をつぶしていっていたあの頃

そんないびつな心を溶かしてく

もっとみる
媚薬

媚薬

背中の窪みをなぞられて
指を下から上へと書きあげられる度
そこだけ軽い掻き傷が出来たように
赤い筋が浮き上がるのです

これは麻薬か媚薬なのか
脳の一部がマヒしてくるの
少し歪ませた表情から薬指の震えを
他人ごとのように眺めながら
自由に動けるはずと分かっていても
見えない糸が私を縛ります

忘れていたはずなのに
指先から感じる体温を身体が覚えていました
都合の良く自分が見えないということは
一瞬

もっとみる