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弓張月の御息所

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大人のためのお伽話、こころの奥底にしまっていた胸のトキメキを美しい言葉で綴ります❤️
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2021年8月の記事一覧

からすうりの花

からすうりの花

私のどこがいけないというのでしょう
ただ静かに貴方を想い
こうして胸に詰まる想いも必死で胸に収め
真夜中にしかその姿を見せないように
自分を抑えていますのに

私はからすうりの花といわれます
月明かりの元、輝きを増す白い花は
夜、蜘蛛が糸を吐くように
細い繊維の花びらを広げ
闇世の中で妖しく光り、虫をおびき寄せます

誰でもいいというわけではないのです
ポリネーターは貴方しかいないのです
一夜

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小鳩豆楽

小鳩豆楽

小鳩豆楽
いつから好きになったのだろう
何故好きになったのか
それも定かでない
今まで余りにも馴染みがあったからか
日常にあって当たり前と思っていたからか
気がつくと干菓子が好きなもののひとつになっていた

20代の頃は刺激があることが
全てだと思っていた
いつでも新しいもの
今まで感じたことのないものを手にしては
そのドキドキ感が
私のアドレナリンを高める唯一の術だと信じていた
攻撃は最大の防

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「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」

「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」

「光より音は遅いんだよ」
そういって貴方は
何も見えない夜空の方を向いたまま
私の手をぎゅっと握った

まだ、花火は上がらない
そして私の早すぎる脈が
掌から伝わっていくのをしっかり確かめながら
ゆっくりと耳元で呟いてくれた

「コ・ト・バ・ハ・ア・ト・カ・ラ」

大きく息を呑み込んで空を見上げると
閃光が放射状に大輪の花を咲かせたかと思うと少し間を置いて地面を揺るがすようなド、ドーンとした音が響

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あの日あの時、私はサバンナの真ん中で途方に暮れていた

あの日あの時、私はサバンナの真ん中で途方に暮れていた

今日、迷子になった

気がつくと私はクリークの岸に足をつけながら
座ったまま寝落ちしたようだった
右手にはかろうじて揃って置いてあるサンダル
そして左手のどこかに引っかかっていたのだろう
じっとりと水につかった夏の帽子が水面に浮いていた

一瞬ここがどこだか分からなかった
瞬間 大きな歓声が地面の底から突き上げるように響く
「ああ、私 野外ライブに来てたんだ」
どうやら私はあまりの熱気と
人の波に

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