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小鳩豆楽

小鳩豆楽
いつから好きになったのだろう
何故好きになったのか
それも定かでない
今まで余りにも馴染みがあったからか
日常にあって当たり前と思っていたからか
気がつくと干菓子が好きなもののひとつになっていた
 
20代の頃は刺激があることが
全てだと思っていた
いつでも新しいもの
今まで感じたことのないものを手にしては
そのドキドキ感が
私のアドレナリンを高める唯一の術だと信じていた
攻撃は最大の防御なりと
常に肩に力をいれて
走ってきた若かりし頃が少し哀しくも懐かしい
 
だけど人生
テンパった楽しいことばかりでもなく
時には家にひたすら篭もり
人目を避け誰とも合わず
自分の心の内を見つめ直さないといけない時がある

心も体も疲れきって
一人で立っていることに嫌気がさし
どこかに寄りかかりたいと思ってしまうこともある
けれど、今まで肩にもたれかかる様な生き方をしてこなかったから
そんな生活に慣れていないから
どうしたら素直に甘えることが出来るのか
ほとほと途方に暮れてしまうのだ
 
そんなことをぼんやりと考える午後のお茶の時間には
抹茶の香りを最後まで邪魔しない
こんな干菓子が心にしみる

「小鳩豆楽」

舌に乗せてそっと含んでみる
可愛らしい型取りをした小鳩が
初めは頑なに水気さえ受け付けず形を保っているが
次の瞬間、音もなくほろほろと
口の中で溶けていく
 
こんなふうに私も
こだわり無く崩れ溶けることができるのなら
どんなに楽だろう
溶けたあとも微かな甘味を残すだけで
はかなく記憶から薄れて
あなたにとって重い存在になることなく
逢瀬を交わせることができればと
 
時折ざわめき立つ感情を
少しづつ抑えては
そろそろ人生の秋の季節に備えたいと思うようになりまし

近頃はゴージャスなお菓子より
小鳩豆楽のような落雁に憧れるのです
貴方にとって誰よりも愛した人にならなくてもいい
いつまでも記憶に残る女性でいたいのです

 

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