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11月3日ー9日 山、ニューヨーク

11月3日 

 季節の風物詩、ニューヨーク・マラソンの日だ。マラソンは、スタテンアイランドからブルックリン、クイーンズを通過し、ブロンクスからマンハッタンに入り、五番街を南下して、セントラルパークマラソンの周りを走って、公園の中でゴールする。マラソンに伴い、いろんな場所が通行止めになるのだが、そんな日がクライアントに帯同する日にぶつかっていた。

 通行止めを避けておもにダウンタウンをまわることになっていた。私の暮らすグリーンポイントは、ばっちりマラソンのルートで、例年、マクギネスブルバードの沿道が応援する人たちでびっちりうまる。けれど、朝が早かったので、家を出たとき、まだトップのランナーたちが到達する前だった。かわりに側道で飲み物やスナックを売る人たちが営業の準備をしている。

 地下鉄でノマドのホテルに行き、クライアントをピックアップして、イースト・サイドのホテルをまわる。 日曜日に動きづらいことを想定して、前日ほとんどの日程を消化していたため、今日は少しゆっくりなペース。今回の帯同は、チームの3分の1は前にも会ったことがあり、残りの3分の2は知らない人たちだった。ちょっとだけ女性の数が少ないくらいの男女比で、全員気持ちの良い人たちだった。

 ランチの際に、私の担当の女性とおしゃべりをすると、共通の知り合いも多いことがわかった。私がいっとき関わっていた会社にもいたという。働くシングルマザー。みんないろんな人生がある。

 マラソンによる道路封鎖である程度の渋滞を覚悟していたのだが、ダウンタウンはまったく静かで怖いくらいだ。が、ミッドタウンより北に行こうとすると、すぐに渋滞に巻き込まれる。運悪く、この日クライアントが取っていたホテルが微妙にマラソンのルートに近かったため、何度かまったく動かない渋滞にハマった。そういうときは交差点で交通警察が車が進んだり曲がったりするタイミングを指示している。ホテルに行こうと右折レーンにいるときに、目の前の車で急に右折が禁止になった。曲がれないとホテルに行けない。やたら威張った交通警察は話も聞いてくれない、目も合わせない。ドライバーが戦おうとしてくれたのをたしなめた。言い争って聞いてもらえたことはないのだ。

 交通警察は、普通のNYPDのポリスとは違う。が、態度が悪いのは同じである。そういえば、まさに数日前に、地下鉄の構内で黒人のティーンを多数のNYPDが袋叩きにしている映像が流出して、デモが行われていた。ため息。どうしてこういうことがなくならないのだろうか。

 夕方から、ポツリポツリと路上にマラソンを走ったであろう人たちの姿を見かける。ゴールで配布される保温布を体にまとっているからわかるのだ。みんないたって普通の人たちだ。そんな彼らがフルマラソンを走った、そう考えるだけでで歓声をあげたくなる。市井のヒーローたちの姿だ。おそらく私が一生到達しないであろう山を超えた人たち。

 仕事を終えて、グランドセントラル駅からメトロノースという電車に乗って山に向かう。駅で食べ物を買おうとおもったが、この時間の飲食店にはロクなものが残っていない。しょうがないからコーヒーを買って、電車に乗り込んだ。下車するときに、やはりマラソンを完走したらしい若い男女のグループと、家族のグループがいてほっこりした。私の1日も長かったけれど、彼らの1日はもっと長かったはずだ。

 前夜から山の家に行っていた恋人が、最寄りの駅でピックアップしてくれた。このあたりのレストランはたいてい21時には閉まってしまう。おまけにバーで食べられるようなものか、ピザしかない。唯一、お気に入りのタイ料理のレストランに閉店30分前に滑り込み、青島を飲みながらパッタイを食べた。若いバイトの子たちが、片付ける間もいていいよ、とビールを出してくれる。 夜、暖炉のそばでビールを呑んでいると、恋人が、そろそろFacebookについて考えるときだ、と言い始めた。彼はしばらく前にアカウントを削除した。前回の大統領選挙にさんざんフェイクニュースを垂れ流したFacebookが、次の選挙を来年に控えて対策を取ることを拒否していることにフラストレーションを表明している。君もやめるべきだと思うよ、と繰り返す。彼の言っていることは正しい。問題は、どうやってやめるか、だ。気がつけば、いろいろなことがFacebookに紐付いている。また考えることが増えてしまった。

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