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日記:12月22日〜28日 ミラノ・ニューヨーク

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12月22日

 やっぱり早朝目が覚めてしまい、Numeroの連載を片付けることにする。年内に書かなければいけない原稿の数が少なくなってきた。今回の連載は、アーティストのMaia Ruth Lee。もう随分前に、ネパールからニューヨークにやってきた彼女は、DIYシーンやダウンタウンのコミュニティの人気者になったけれど、最近はアートのエスタブリッシュメントに認められている。去年は、ホイットニーのビエンナーレの出展アーティストに選ばれた。連載もだんだん続いてくるとネタ切れになりがちになるのだが、そういえば彼女のホイットニーの作品について聞きたいと思っていたのを思い出したのだ。
 仕事を終えた頃に彼が起きてきた。毎晩、私が寝たあと何時間か遅くに起きているらしい。私は、自分よりもニュースを読んでいる人を、何人かしか知らないが、彼は、そういう人間の一人である。「〜知ってる?」と聞いて「知らない」という言葉が返ってくることがほとんどない。一種のオブセッションでもある。
 どこか近場の郊外にでも出かけようか、という提案もあったのだが、いろいろ聞いてみると、ミラノからぱっと行けるような場所には、ホリデーを求める人口が押しかけていそうで、こういうときは、都会でマイペースに過ごすのが良かろうという結論に達した。
 蚤の市に行こうか、とも考えたが、場所を調べると電車で1時間くらいかかる。やっぱりさ、せっかくの休みだからのんびりしようよ、と、近場のビンテージショップを徘徊することにした。ミラノのヴィンテージショップでは、アメリカの商品が人気のようだ。ワークウェア系のものになかなかな値段がついている一方で、ヨーロッパ物はリーズナブル。アメリカのヴィンテージをこっちに持ってきて、ヨーロッパのヴィンテージを持って返ったら儲かりそうだよね、なんて話ながら、欲しい物は見つからない。Costocoというディスカウントチェーンのプライベート・ブランドのカシミアセーターが55ユーロで売られているのを見てドン引きする。

 特に目的のない旅だから、ただひたすらしゃべりながら、プラプラする。先日、空の旅の途中で知り合った男の子が送ってくれたレストランのリストの中から、カジュアルなレストランに入ってみる。google translateを使って、肉の名前が登場しないことを確認して注文したキノコリゾットに、ハムの細切れが入っていて泣きたくなった。郷に行っては郷に従え、である。食べてしまうことにした。どうせ休暇だし、明日ぐったりしてもそれほど困ることはない。それに、このハムはもう加工されているのだ。
 年末、世の中の膿ががドローっと吐き出ているような気がする。日本でも、アメリカでも。タイムラインが、安倍政権がらみのスキャンダル、伊藤詩織さんの件をめぐるオンライン上での言い合い、表現の自由をめぐる醜悪なニュースと言説でタイムラインが埋まっていく。同時に、オンラインのファイターたちの勇姿に惚れ惚れする。自分もがんばらなければと思う。
 そういえば、CBSニュースが流していたクリップで、トランプ大統領が弾劾によって解任されたら、という質問に、暴力や流血を示唆する怖い答えを返す人たちの姿を見た。



 ぞーっとおののいて、彼に、「ちょっとちょっと〜」と見せると、「まあこういう奴らは逮捕されるってことで」とまったく心を動かされる様子がない。ずいぶんシステムを信用してるんだね、と皮肉を言うと、ヘイトクライムにはFBIだって許さないという態度で向かってるんだ、こういうやつらは逮捕されるよ、と動じない。いつも彼は、私よりも少しだけ楽観的だ。それは、白人の男性だということと無関係ではないといつも思っている。
 夕方、今日は何を食べたいか、と考えた。これまでの経験上、ミラノで美味しいのはシーフードだった。グーグルで見つけたシーフードレストランで、レーザークラムやアマエビを食べた。またもやワインをしこたま呑んだ。バケーション、最高だ。

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