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日記:1月12日〜18日 ニューヨーク

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1月12日

 東京の作家の女友達から連絡があった。個展に来てくれた人が「ねーね(私のあだなのひとつ)に怒られるけど、本はアマゾンで買う」というようなことを言っていたらしい。業界の人間である。苦笑い。
 本というものに関わっていると、自分たちがどれだけアマゾンに支配されているかがよくわかる。あちらが圧倒的にパワーを持っていて、作家や出版社がコントロールできる範囲はとても少なく、とにかく一方的なのだ。というような話は、これまでちょいちょい書いてきたが、だから、私の周りの人間には、遅ればせながらアマゾン独占状況に危機感が広がっている。
 アマゾンを排除することはできない。それはわかっている。アマゾンのすべてが悪いわけではない。KindleやAudibleの功績だって過小評価はできない。けれど物理的な本については、自分がこれで食っているのだから、せめて自分は、アマゾンで物理的な物を買わないという選択をしなければいけないと、思って生きている。そのおかげで腕が痛くなったり、荷物が重くなったりすることもある。もちろんのっぴきならない事情で本を急いで手配しなければいけないときだってあるし、そのへんは個々の価値基準でやるしかないのだが。
 気を取り直して外を見る。朝からピーカンだ。しかも外は18度である。1月にこんなことあっていいのか。今日はハイキングに行こうと決めていた。元旦に久しぶりに一人で歩いて、ハイキングの喜びを思い出したこともあるし、ウォーキング・メディテーションのパワーをもうちょっと追求してみたかった。そういえば、このあたりには、トレイルが無数にあるはずなのである。
 そういえば5年ほど前に見つけたはずのトレイルがあって、近くに泳げる湖があった。当時はグーグル・マップに印をつけることなどもせず、なんとなく覚えているのだろうと思っていたが、地図を見ても記憶がまったく戻ってこない。ただ漫然とトレイルを探す結果になった。
 検索して見つけたトレイルにとりあえず行ってみたら、初めての場所だった。高速84号線のそばに入り口がある。こんなところに文明が、と思ったが、あるのは自動車ショップだけで、その反対側に、唐突にトレイルの入り口があるのだった。天気が良いせいか、車が何台か止まっている。この森林の中に、トレイルが何本かある。湖のそばまで行くコースを選び、歩き始めた。およそ4マイル(6.5キロ)。トレランにぴったりそうな傾斜のあるコース。なるべく考え事をせずに、景色を見ながら歩く。冬は枯山かと思っていたが、このあたりの森には苔もあるし、何よりも枯れた花々の姿が美しくてうっとりした。車はたくさん停まっていたはずなのに、人とすれ違ったのは3回だけ。みんなそれぞれの楽しみ方があるのだろう。途中、バギーの集団とすれ違った。
 帰りにファームストアに寄ろうと思って地図を確認したら、冬は短縮営業だった。あそこのドーナッツを食べたいと思っていたのにがっかりである。
 遠くの国で大スターになった友達が、インスタグラムでシェアしていたウィル・スミスのインタビュー動画を見て、いろいろ考える。自分のことは自分にしかわからない。


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