これからあなたを騙します
僕は誰?
1.7月2日 相野たける
僕のクラスに、ひときわ存在感を放つ女子がいた。
とはいっても、騒がしいわけでもとびきり美人というわけでもない。どちらかというと大人しく、友達の話を静かに微笑みながら聞いているタイプだ。体育の授業でいい成績を残すわけでも芸術面に長けているわけでもない。あらゆる面で平均的な女の子だった。
だけど、同じクラスの女子たちとは異質の雰囲気を醸し出していた。授業中にふと窓の外を眺める横顔が、物憂げでどこか儚くもある。
そして、腹の奥に潜んでいる欲情を掻き立てられる時があった。
僕は、それが何なのか知るために彼女に声をかける。
彼女は僕の呼びかけに、笑顔を返した。
2.9月14日 相野幸子
今日もあの子はいつも通りに学校へ行った。
いつも通りの時間に起き、いつも通りに朝ご飯を食べ、いつも通り「行ってきます」と小さく言う。
私はその背中に向かって「いってらっしゃい」と明るく声をかけるだけだ。
いつからだろう? あの子が寄り付かなくなったのは。あまり話してくれなくなったのは。
いつまでも甘えてくるのは問題なのだろうが、私にとってはいつまでもかわいい子供だ。
私は、中学生くらいの頃から掃除をするのですら断られたあの子の部屋のドアをそっと開けた。
主人は仕事に行っているし、他に同居している人はいない。私のこの行動の妨げとなる存在は何もないのだ。
思春期になって、『そういうもの』を見られたくないのだろう。一時期心配になるほど証拠品を見つけたことがあるが、最近は落ち着いているようだ。
いつものようにゴミ箱の中までをチェックし、入ってきた時と同じ景色に戻す。
それは、毎日していることだった。だから、今日も同じようにできると思った。
けれど私の思考と行動は、机の中のある物を見て、全て停止してしまった。
何でこんなものをあの子が持っているの? 一体いつから? それにこの写真の示すことが本当なら──私はその恐怖に手も声も震える。
「何よこれ……誰なの、この女」
3.10月18日 相野たける
そういえばと気付いたことがあった。
彼女は昔──といっても、僕が子供の頃に記憶している母と雰囲気が似ていたのだ。
父に従順で、感情をあまり表出さない人だった。家事も、父や息子である僕のために手を抜くことはなかった。
そんな母が一度だけ父に泣かされているところを目撃したことがあった。
すごい衝撃だったのを覚えている。
なぜ父がそんなことをしているのかもわからない子供だった僕だが、今ならわかる。そう、今なら。
この日は、早めの帰宅をした。母のことを思い出したからだろう。彼女とも会わず、珍しく夕食時だ。
それがいけなかった。
玄関の扉を開けると、ものすごい形相を浮かべた妻が紙のようなものを片手に詰め寄ってきた。
「あなた、何してるのよ! よりにもよって、自分の生徒に手を出すなんて!」
その紙のようなものには、愛を育み終えた僕と彼女が楽しそうに笑っている姿が写っていた。
END
魅惑的な白い2つの山
白く柔らかそうな山が二つ、僕の目の前にある。
少しでも触れたらその均衡が保てなくなるような、魅惑的なものだ。
そこからほのかに上がる蒸気と、向こう側に見える彼女の顔に妙な興奮を覚える。
「先に、あなたのがいいな」
彼女の『お願い』に応え、そのものを差し出す。嬉しそうな顔をして、彼女は口を開けた。
妖しくうごめく舌に包まれ、それは変形する。
「おいしい」
満足そうに彼女は言った。
「私のも食べてみて。はい」
口を開けろと求めるような仕草に素直に従い、僕の口の中にそれは運ばれた。
瞬間、冷たさと果汁の甘さと酸味が広がる。
「おいしい?」
頷くと、彼女は一層顔を輝かせて言った。
「よかった!あなたにも食べてもらいたかったんだ。ここのかき氷」
END
文章で騙すってこういうこと
いかがでしたでしょうか?
え? 一話目の奥さんが怖すぎるって?
私も正直書いてて恐怖を感じましたw
それとは違いますが、私が「文章で友達を騙したい」というのは、こういうことです。
文字だからこそ出来る引っかけ
映像ではできません。
文字だけで想像するから成立するんです。
一話目は、「僕=高校生の息子」とするために、「妻=母」の視点を入れてみました。(つまり、『僕』はいい年した高校教師です)
二話目は、使う言葉でイメージを固める、ということをしてみました。
クッソ、騙された!と笑ってくれる友達に向けて書いたものです(女性なんですけどね、友達)
ブログでは人を騙してはいけませんが、小説ではできるのでクソガキである私にはぴったりな場所です。
楽しみの範囲で笑い飛ばせる冗談を言う。
小説って、だから面白い。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?