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側用人は誰がために

あの新規事業,好評みたい
予算編成の過程で議論して
磨き上げた甲斐があったよね
賞賛の声は全部市長と現場のものだけど
#ジブリで学ぶ自治体財政

大人気(笑)の側用人シリーズ。

今日は第三弾。
「側用人は誰のために働いているのか」という話題を提供したいと思います。
財政課時代に私が悩んでいたこと,それは財政課の使命は何かということです。
一言でいうと「いい予算を組み,それが適切に執行されるよう管理することを通じて市民福祉の向上を図る」ということだと思うのですが,これを個々の業務に分解し,課の業務遂行方針として所属内に示すのはなかなか難しいことでした。
それは「いい予算」「適切に執行」とは何がどういう状態になることを指すのか,そのために財政課が直接働きかけることができることは何なのかを定義することが非常に難しいからなのです。
市民から負託された財源を適正に配分し,市民のニーズに応えた政策を推進していくという予算編成本来の目的,目標の実現に向けて,財政課がどのような役割を果たしうるか,果たしているのか。
実は,財政課の役目というのは,1年間の収入支出計画のすべてを決めるという壮大な意思決定のために全庁挙げた対話・議論の場を設け,そこでの対話・議論のルール(時期,方法,参加者等)や全体として守るべき外的環境の前提条件(いわゆる財政規律)を設定し,その対話・議論の場を運営する管理者,進行役に過ぎないのではないかと思うのです。

予算編成権は首長にあり,財政課は首長の意思決定に必要な情報を集め,精査し,論点を整理し,首長の判断を迅速・円滑・的確に行えるように補佐しています。
首長の判断を行いやすくするための情報整理の過程では,首長の意向を現場にあるいは現場の意向を首長に伝達する役割と,縦割りに区分された部局間の利害を調整する役割を担います。
これは対話の場でいうところのファシリテーターやホワイトボードへの記録者のような役割にあたるでしょう。
実際のところ,財政課では何も決めずに庁内の意思決定の過程を集約して首長に伝達し,その判断を補佐しているだけなのではないでしょうか。

予算編成は単なる数字合わせではありません。
予算は編成が終われば財政課の手を離れますが,本当の勝負はそこからです。
決定された予算は各部局に配当され,これをもとに局長,部長,課長の決裁権限の下で具体的な執行の意思決定を行います。
財政課はその執行にあたり特に重要なものについて協議や合議というかたちで相談に乗り,財政規律の面からその都度意見を述べるアドバイザーに徹します。
予算が現場で執行され,あるいは予算を伴わずとも現場で市民のニーズに真摯に向き合うなかで,現場職員が市民の満足度向上に向かって日々尽力していくことができる環境を整備し,その権限や財源,モチベーション維持向上のために側面から支援することが財政課を始めとする官房部門の役割であって,予算編成はそのための手法にすぎないのです。

企画課長として総合調整を担当しているときに心掛けたのは,まさに市役所全体の意思決定の円滑化,迅速化,的確化でした。
調整が必要な案件を早めにキャッチし,関係者での意見交換,対話,議論の場を設けて論点を整理し,政策や財政,議会運営等,市政全体の方向性との整合を図りながら,タイミングよく首長の判断を仰げるよう情報を整理する。
その際に留意すべきは,最も「適切な」結論になるよう絶対的な真理を求めるのではなく,その案件担当課をはじめとする関係職員が企画課の設けた場で議論することができ,その熟議の末に出した結論に首長が満足できるかどうかです。
選挙で付託された信任に応えるという意味で首長の満足は当然必要ですが,現場で市民の理解を得るためには案件担当課をはじめとする関係職員の納得は不可欠であり,首長はそのことも踏まえて判断することになるのです。
そのほか,企画課長時代に職場全体で対応していた膨大な照会回答の集約も,巨大な組織で情報の散逸を防ぎ,重要な意思決定に備えるためのもの。
他の所属に属さないたらいまわしの案件処理も,組織としての対応を漏れこぼさないための安全網であってこれも誰かがやらなければならない仕事。
いずれも,それぞれの現場では取り組めないことを代表して俯瞰的に行い,その中で現場の情報や意見を聴取しながらとりまとめ,導かれた結論についても現場にフィードバックしていく。
そうすることで,首長の行うべき組織統率のための情報収集と伝達,そこで培われる意思疎通,意識合わせを代行しているのです。

側用人は首長に仕え,首長の満足のために働くものだと思われている方が多いように思われますがそれは誤りです。
官房部門が担うべきは現場機能の維持向上を目的とした首長の管理統率力の担保ですが,現場の即時的確な対応を可能にするモチベーションの維持向上を考えれば首長側からの一方的な管理統率は好ましくありません。
現場が自ら能動的に市政全般の方向付けを理解し行動する組織となるためには,首長の顔色ばかり窺って官房が現場を見殺しにすることは許されませんし,首長が官房を使って箸の上げ下げまで指図し,不随意の現場を力で操るというのもよくないでしょう。
私が理想とするのは,各職員,職場で自治体全体の方向性が共有され,同じ目的に向かって各職場,職員が自らの持ち場で全力を尽くす自律経営。
常に誰かの顔色を窺い,現場では何も決められない一極集中の中央集権ではなく,市民に近い現場で全体最適と部分最適の統合が自発的に行われる組織です。
組織の自律経営を嫌がり,権限や責任の委譲を避け,「自分の権限ではない」と説明を回避して市民から逃げ,責任を官房部門や首長に転嫁することは決して市民のためにはなりません。

側用人たる企画,財政,人事,秘書等の官房部門の果たすべきは,首長と現場をつなぎ,相互の情報共有と意思疎通を通じて組織全体が一定の方向に統率され円滑に機能するための潤滑油の役割。
その仕事は詰まるところは市民のためであり,その情報収集・伝達・共有や対話・議論の場の設定・運営,それらによって導かれる自治体の意思決定と行動は常に市民のためになることが求められています。
組織内部で首長や各職場に対して具体的なアクションをとる官房部門の仕事は,市民によりよいサービスを提供するという目的と手法の関係性が見えにくくその成果も測りづらくわかりにくい仕事ですが,そんな中でも市民によりよいサービスが提供できたときの首長や現場職員の満足げな笑顔をKPIにして,縁の下の力持ちに徹するのが側用人たる官房部門の務めなのです。

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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