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王様の耳を語れ

うちの市長はXXXXだー!
おかげで有能な職員がどんどん辞めていく
本当に市民のための仕事ができないぞー!
って大きな声で言えたらいいんだけど
#ジブリで学ぶ自治体財政

これまで財政運営をはじめとする自治体経営における「対話」の重要性を幾度となく説いてきましたが,我々自治体職員がいくら頑張ったところで首長が変わらなければ何も変わらないという話を時々耳にします。
ある時は広く住民の声を聴かず,自分に近く声高な一部の支持者からの求めに対応して動く独善。
またある時は,職員の進言を聴かず,自らの価値観に基づきパワハラまがいの上意下達で組織を動かす専横。
またある時は,将来の財政負担を顧みず,現在の市民に受けの良い施策事業ばかりを打ち上げる身勝手な刹那主義に辟易とし,いつか訪れる首長引退の時を密かに待っている自治体職員はきっと少なくはないでしょう。(私がそうだというわけではありません(笑))

選挙で選ばれたのだから我こそが民意だという主張は全くの誤りではないにせよ,その一挙手一投足がすべて民意の信託に基づくものか,手掛ける施策事業や組織運営が市民の真に求めるものかどうかは,自治体運営の節目節目で市民からチェックされなければなりません。
しかし,残念ながらそのチェックは不十分と言わざるを得ず,結果として統治能力に疑義のある首長が「危険な」自治体運営を行っている事例が散見されます。
自治体の首長は大統領のようなもの。
選挙で選ばれたのちに統治者として与えられる権限は絶大であり,それは合議体の構成員である議員とは比較になりません。
自治体経営の最上位に君臨するリーダーに求められる適性を欠いた者を選んでしまうリスクにどう抗えばいいのでしょうか。

「統治能力を十分に備えていない首長」とは具体的にどういう能力が足りないのか,またその不足がどのような悪影響を及ぼすのかを考えてみましょう。
私は大きく三つに分かれると考えています。
一つ目は,限りある資源を有効かつ適切に配分し,成果を最大化する「経営」力。
「経営」力が足りなければ,無計画でバランスを欠いた投資で限られた資源を浪費してしまい,求められる市民福祉の最大化が遠のいてしまうことはこれまでも述べてきた通りです。
二つ目は,職員に事務を分担させ,組織として一体的に機能させる「統率」力。
「統率」力が足りなければ,組織を構成する職員のモチベーションの低下やベクトル分散により,その力を一つの方向に結集させ,組織としての行動を整合させるための内部の労力が余計に必要になりますし,人材の育成活用が見込めず,魅力ある職場として優秀な人材を組織内に呼び込み留めることが困難になることも問題です。

三つ目は,市民の声に耳を傾け,多様な立場の市民を束ね合意に導く「対話」力。
「対話」力は,そもそも多様な立場,意見の市民が民主的に選んだ首長に期待する最大の能力です。
多様な立場からの意見をありのまま聴く力,それらを統合し,それぞれの立場から共感を得られるビジョンを描き,それを語り伝える力,この「対話」を実践する能力なくして,多種多様な意見をまとめ市民の納得ある合意を導くことなどできるはずがありません。
納得に裏打ちされた合意があれば人はそれに従い,秩序ある自治体運営を安定的に継続することができます。
「経営」を行う上でも「統率」を行う上でも「対話」に基づく合意形成は必須。
この合意を形成する「対話」力こそ,市民の信託を受け,その生命や財産を預かり地域の未来を市民協働で創るリーダーを務めるために必ず備えるべき能力なのです。

しかしそもそも,これらの統治能力を十分に備えていない(と我々自治体職員が感じている)首長が自治体運営を担っているということについて,有権者である市民はどのくらいそのことを知り,理解し,その現状を肯定しているのでしょうか。
残念ながらその事実は市民には十分に知られていません。
ある市民の方とお話しした際に「行政サービスは水や空気のようなもの」と言われたことがあります。
選挙の投票率が低いのは市民が政治に無関心だからという人がいますが,市民が政治に関心を持たないのはそれなりの水準の行政サービスが提供されている現状に特に不満がないからとも考えられます。
各種の法令に定められたルールや役割分担の下で日々誠実に事務をこなす真面目な自治体職員の奮闘のおかげで,自治体の遂行する事務はおおむね市民が求める適切な水準を維持しており,市民はその不具合を意識することがないということなのです。

このため,万が一「統治能力を十分に備えていない首長」を選んでしまったとしても,今の自治体運営に市民が満足ならそれでいいじゃないか,政治は結果がすべてだという意見もあるかもしれません。
しかしそれはたとえて言うなら,出された料理が美味しければその食材がどこで調達されたどういう素性のものかわからなくてもいいというようなものです。
あるいは出された料理がそんなに美味しくなくても,ムラで一軒しかない料理店なのだからほかに選択肢がないという諦めかもしれません。
もっといい食材を使ったら,もっといいシェフが厨房に立ったなら,もっと美味しい料理が味わえるのにその楽しみを知らずに放棄しているということを,実は多くの市民は知らないのです。

市民がもっと美味しい料理を楽しむ,すなわちもっと良い自治体運営の果実を享受するために,私たち自治体職員は「中の人」だからこそ知っている食材の不備,シェフの技量不足について「こうすればもっと美味しい料理がつくれる」と政治的な意図を持たずに役所の外で語ることについて,もう少し勇気をもって踏み出すべきではないでしょうか。
上司にあたる組織のトップが抱える「経営力」「統率力」「対話力」不足とそこから生じる自治体運営の闇。
職員だからこそ知りうるこの闇の実情を語るには,私たちがそれぞれ置かれている立場や知っていること,伝えたい相手によって時や場所,言葉を選ぶことになるでしょう。
しかし,私たちがそこでまったく口を閉ざすことで,市民がより良い自治体経営を享受することができないということは,私たちが公務員として課せられている全体の奉仕者としての義務,市民福祉の向上という自治体の使命を果たすうえで乗り越えるべき課題なのではないかと思うのです。
自治体の首長選挙があるたびに聞こえるこの怨嗟の声をプラスに変え,より良い自治体運営を実現するために,どうすれば私たちが「王様の耳は」と声を上げる勇気をもつことができるのか,真剣に考えたいと思います。

★自治体財政に関する講演、出張財政出前講座、『「対話」で変える公務員の仕事』に関する講演、その他講演・対談・執筆等(テーマは応相談)、個別相談・各種プロジェクトへの助言・参画等(テーマ、方法は応相談)について随時ご相談に応じています。
https://note.com/yumifumi69/n/ndcb55df1912a
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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