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続・側用人は誰がために

市長殺すにゃ刃物は要らぬ
側用人が寝てりゃいい
とはよく言ったもんだ
すべての疑惑はあなたの資質の問題だと
すり替えられているのだからね
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
ここ2回連続で「風通しの良い職場」について書いてきました。
働く者の心理的安全性が保たれ、その場にいることに苦痛を感じないで済む、あるいは働く者がその組織に対して貢献しようという意欲を持つことができる「風通しの良さ」は、労働環境として使用者、管理職が無条件で整備しなければならない。私はそう思っています。

では組織においてその実現のために誰が責任をもって汗をかけばよいのでしょうか。
私たちの働く自治体組織においては首長が使用者のトップですが、首長が個々の職場での「風通しの良さ」を担保する具体の実務を担ったり、あるいは各管理職に指示してそれを実行させたりするわけではありません。
では誰がその実務を担い、あるいは各職場に命じるのでしょうか。
 
以前、私が財政課に在籍していた時代のことを振り返って「側用人」について書いたシリーズがありました。

財政課長として福岡市の台所を預かり、4年の間自治体運営の中枢で予算編成に明け暮れていた中で私が考えたことは、自治体組織内でのコミュニケーションの重要性と、それをつかさどる「側用人」の機能発揮への期待でした。
首長の周辺で全体を統括する秘書、企画、財政、人事部門は、首長の意向を聴きそれを庁内に伝達することだけが仕事ではありません。
私はそのことを身をもって感じました。
財政課時代に予算編成手法の改革として枠配分予算の仕組みを導入したのは財政課が査定から解放されて楽になるためではありません。
官房部門だけが握る情報を全庁に開放し、代わりにその情報をもとに判断し責任を負う権能を現場各所に分散することで、自治体運営そのものを各職場、各職員の「ジブンゴト」と化し、任せられた持ち場を自らの意思で運営していく「組織の自律経営」を果たす。
このことがもたらすのは、市民と直接意思疎通を図ることができる現場で行政運営を行うことによるサービスの向上、市民満足の向上、さらには庁内の情報伝達に伴うロスの最小化です。
さらには自治体運営の一端を責任をもって担うことから、先日よりお話ししている「帰属意識=組織への愛着」をも育むことができると思うのです。
 
側用人は首長に仕え、首長の満足のために働くものだと思われている方が多いように思われますがそれは誤りです。
官房部門が担うべきは現場機能の維持向上を目的とした首長の管理統率力の担保ですが、現場の即時的確な対応を可能にするモチベーションの維持向上を考えれば首長側からの一方的な管理統率は好ましくありません。
現場が自ら能動的に市政全般の方向付けを理解し行動する組織となるためには、首長の顔色ばかり窺って官房が現場を見殺しにすることは許されませんし、首長が官房を使って箸の上げ下げまで指図し、不随意の現場を力で操るというのもよくないでしょう。
私が理想とするのは、各職員、職場で自治体全体の方向性が共有され、同じ目的に向かって各職場、職員が自らの持ち場で全力を尽くす自律経営。
常に誰かの顔色を窺い、現場では何も決められない一極集中の中央集権ではなく、市民に近い現場で全体最適と部分最適の統合が自発的に行われる組織です。
 
側用人たる企画、財政、人事、秘書等の官房部門の果たすべきは、首長と現場をつなぎ、相互の情報共有と意思疎通を通じて組織全体が一定の方向に統率され円滑に機能するための潤滑油の役割。
その仕事は詰まるところは市民のためであり、その情報収集・伝達・共有や対話・議論の場の設定・運営、それらによって導かれる自治体の意思決定と行動は常に市民のためになることが求められています。
組織内部で首長や各職場に対して具体的なアクションをとる官房部門の仕事は、市民によりよいサービスを提供するという目的と手法の関係性が見えにくくその成果も測りづらくわかりにくい仕事ですが、そんな中でも市民によりよいサービスが提供できたときの首長や現場職員の満足げな笑顔をKPIにして、縁の下の力持ちに徹するのが側用人たる官房部門の務めなのです。
 
側用人が組織の潤滑油として首長と現場、あるいは各政策部門間の意思疎通を図ることで組織全体が同じ方向を向き、そのことが各職場、職員が実感できるようになれば、それはきっと「組織への愛着=帰属意識」に裏打ちされた「風通しの良い職場」づくりに直結します。
その全く逆のことが、今、兵庫県で起こっているのではないでしょうか。

この問題は首長から職員へのパワハラという人権侵害に加え、その力関係を背景に首長とその腹心幹部による不透明な密室政治が行われたことで、まっとうな行政運営が歪められ、不適切な意思決定や事実行為が行われたのではないかという疑惑です。
連日このことが報道され、兵庫県庁の職員の皆さんはさぞ辟易し、組織への愛着を喪失しかけているのではないかとお察しします。
官房部門は言ってみれば自治体組織全体の中で管理職的な立場にあり、組織の運営全般をコントロールできる権能を持っていますが、その官房部門が機能不全を起こした例として私は今回の事件を注目しています。
官房部門がその権能を業務の遂行、政策の実現のみに傾注するのではなく、ましてや首長の意向への忖度や官房部門の独善を差し挟むことなく、官房部門の本来業務として庁内外のコミュニケーションの潤滑化にも軸足を置き、情報の共有や立場の異なる者同士の対話による相互理解に努める。
そこで初めてその組織運営について職員、市民から理解と納得に基づく信頼を得られ、ひいてはそのことが業務の遂行、政策の実現をより円滑に、着実に、そして充実した内容を以て推進することにつながり市民県民の満足に資するのだということを、この事件を眺めながらひしひしと感じています。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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