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経営者は誰だ

いつも私に店番を任せてるけど
お店の経営が苦しいのを知ってるのかしら
お店のお金で遊んでる場合じゃないのにね
#ジブリで学ぶ自治体財政

自治体の財政運営においては、黒字の確保ではなく収支の均衡が至上命題であるということはあまり知られていません。
昨日の投稿では、財政が豊かであることを市民に知らせることにさほど意味はないが財政が豊かでないことは市民に知らせる必要があると書きました。
この意味は、自治体財政の収支均衡至上主義が理解できていないとよくわからないのではないかと思いましたので、今日はそのことを説明します。

民間企業は利益を出すこと、収入が支出を上回り黒字になることが求められるが自治体はそもそも黒字化を目的としていません。
では収入が支出を下回る赤字についてはどうでしょうか。
民間企業は単年度で赤字になってもすぐには倒産しませんが、それは年度で赤字になったとしても、資金ショートが起こらないようにつなぎの融資を受けることができるからです。
ところが自治体は、赤字を埋める借金ができません。
借金ができる場合は法令で厳格に定められており、社会資本整備等に充てる経費を除いては原則として借金をすることができないこと、また、なぜ借金ができないかということについては、財政民主主義に基づく会計年度独立の原則による、とこれまで何度かこの場で述べてきました。
従って、収入が見込みを下回ったり、支出が見込みを上回ったりした場合に、それを回避する手段が民間企業に比べて非常に限定的なので、赤字を回避し収支を均衡させることが必須の至上命題ということなのです。

収入不足や支出の増加で年度内での収支均衡を図ることが難しい場合に執りうる手段としては、緊急手段として翌年度の収入から借り入れる「繰上充用」を除けば、過年度の決算剰余金を積み立てた財政調整基金や特定の使途に充てるために積み立てた特定目的基金を取り崩すことしかありません。
基金は、積み立てた額の範囲までしか取り崩すことができませんから、毎年必要になる経常的な支出に充てていけば必ず枯渇します。
しかし、収支不足でお金が足りないときにそんな原則論を語る余裕などなく、経常的な支出が増え、経常的な収入との均衡が図られないときであっても、やむを得ず取り崩し、それを毎年度繰り返すことで徐々にその残高が減っていき、このまま取り崩しが進めば予算が組めなくなる、という事態が発生しているのです。

自治体は株式会社と違って、新株を発行して資金調達することも、減資で欠損金を減じることもできません。
大量の保有資産はいずれも行政用途に供しており、売却処分で現金に換えることも、それを担保にお金を借りることもできません。
収入の根幹をなす税収は個人や企業の経済活動の結果であって、景気などの社会経済活動の影響を受けるため、自治体の経営努力でその増減がコントロールできるものではなく、一定の変動リスクを常にはらんでいます。
収入不足を回避する切り札は、民間企業でいえば値上げ、自治体でいえば増税ということになります(増税の難しさは別稿に譲ります)。
つまるところ、必ず行うべき収支の均衡を実現するには、補てん策が限られ、コントロールの難しい収入側での対応ではなく、支出のほうを抑制するしかないということなのです。

では民間企業と異なる、自治体特有の支出抑制の難しさについて、皆さんはどの程度理解されているでしょうか。
当然、個々の施策事業を効果的、効率的に実施し必要最低限の経費に支出を抑えることは民間企業だろうが自治体だろうが関係ありませんが、施策事業そのものの見直しとなると話は違います。
民間企業であれば、経営者の判断として赤字が継続し収支の改善が見込めない事業分野から撤退することが可能ですが、自治体の場合簡単ではありません。
自治体の業務領域の多くは法令で定められ、自治体の裁量でその事務そのものを止めてしまうことはできません。
このために国が各種の補助金や交付金、地方交付税などで所要の財源を手当てしてくれていますが、これも自治体財政を語るうえでは多くの問題を抱えています(これも別稿に譲ります)。

自治体の裁量が及ぶものであっても過去の政策決定を覆し、既存の施策事業を見直すことは容易ではありません。
それぞれの施策事業の政策決定においては、その必要性や効果が示されており「必要だ」「効果がある」という判断をしたという前提があります。
この前提を覆すことが自治体においてはなかなか難しいのです。
自治体は市民から預かった税金を財源とし、市民から自治体運営に関する権限の信託を受け、それを間違いなく市民福祉の向上に役立てるために各種の施策事業を実施しています。
このため「役所のすることは間違いがない」という信頼を自然と市民から得ており、そのことが日々の行政運営を円滑に行う上で大いに役立っています。
しかしながら、この「間違いがない」と信頼されている自治体がこれまでの方針を変更しようとすると「今までと説明が違う」との反発を浴びることになります。
また、自治体は個々の政策判断を自治体職員がやっているのではなく、市民から選ばれた議員が構成する議会での審議を経て合意を図り決定しています。
既存の施策事業を見直すには、これまでの自治体と市民との信頼関係を維持しつつもこれまでの説明に基づく合意を覆す新たな説明と新たな合意が必要になるのです。

自治体は民間企業と違い、顧客がそのまま全員株主のようなものです。
市民はサービスを受ける主体である一方で、サービスを提供する自治体に納税し、自治体運営の権限を付託し、それを監視する立場です。
しかし多くの場合、個々のサービス見直しの議論において市民は、顧客の立場でその見直しに抵抗感を示すことが多く、株主の立場で自治体経営を論ずることはあまりありません。
しかし我々自治体職員は経営者ではありません。
自治体職員に経営者としての主たる意思はなく、市民の意思を総体として代弁する首長や議会の意思決定を補佐する補助機関にすぎないのです。
とすれば、言い方は乱暴ですが、自治体財政が収支均衡を至上命題としていることへの理解不足も、自治体特有の支出抑制の難しさ、特に施策事業の見直しの難しさも、自治体の経営者である市民がその経営責任を果たさないから、ということになりはしないでしょうか。
もちろん、その経営責任を果たすうえで必要な情報の共有ができておらず、市民に経営者としての当事者意識を持ってもらう環境を、経営者の補助機関である我々職員がきちんと創れていないということの結果ではありますが。

興味のある方はこちらの過去記事もご覧ください。


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