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開いた口がふさがらない

「今月苦しいからお金貸してくれない?」
「先月貸した分は返してくれるの?」
「うん,だから先月の分返すのにお金がないから貸してほしいんだけど」
#ジブリで学ぶ自治体財政

いつもは地方財政をテーマにお話ししていますが,今日は国家財政の話題を。
皆さんは「ワニの口」って聞いたことありますか。
以前「借金をしていいのはどんな時」で地方自治体の借金について書きました。

この記事の中で,国は必要な支出の額に対して収入が足りないとき、収入と支出のギャップを埋めるために「赤字国債」を発行することができますが、地方自治体では赤字を埋めるための借金は認められていません,と説明していました。
この国の借金の状態を表すのが「ワニの口」です。

財務省HP「どのくらい借金に依存してきたのか」をご覧ください。
https://www.mof.go.jp/zaisei/current-situation/situation-dependent.html
「これまで、歳出は一貫して伸び続ける一方、税収はバブル経済が崩壊した1990年度を境に伸び悩み、その差はワニの口のように開いてしまいました。また、その差は借金である公債の発行で穴埋めされてきました」と説明されています。
「ワニの口」とは,支出が伸びに見合う税収が確保できず,赤字を埋めるための借金を繰り返しその差がどんどん広がっている状況を表した言葉です。
2020年度当初予算における歳入(1年間の収入見込み)において,公債(借金)による収入は32.6兆円。全体の31.7%にあたります。
そして,同じ2020年度当初予算の歳出に占める公債金支出(借金の元本及び利子の返済)は23.4兆円,全体の22.7%です。
返す額よりも借りる額が多いということはそれだけ毎年借金の残高が増えていっているという状況,これがワニの口が広がる一因でもあります。

国も地方自治体と同様に社会資本整備の財源に充てる「建設公債」があります。
これは地方自治体と同様に将来にわたって長く使い続ける社会資本の整備費用について,整備を行う時期の国民だけで負担するのではなく,その社会資本の便益を受ける将来の国民にも負担していただくことで世代間の公平を図る,との考え方によるものです。

しかし赤字国債は違います。
財政法第4条は、「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以てその財源としなければならない」と定めており,同条但し書きで認めている建設公債以外には借金を支出の財源に充てることを認めていません。
ここまでは地方自治体と同じ構造ですが,1965年度の補正予算において、経常経費の赤字を埋めるための赤字国債について「公債の発行の特例等に関する法律」が制定され,以後,年度ごとに赤字国債を発行するための1年限りの法案が国会で議決されるようになりました。
赤字国債は1991年度予算で新規発行ゼロとなりましたが,バブル経済崩壊後の1994年度から再び発行され続け,現在では各年度での赤字国債発行について法案審議するのではなく,2012年に東日本大震災を契機に成立した「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」で複数年度の期間を法律で定め,その期間内については各年度予算について国会の議決を経た金額の範囲内で赤字国債を発行することができるようになっています。(現在の法律では2016年度から2020年度までの期間とされています。)

そして,2020年度にはコロナ対策の補正予算で1次,2次合わせて60兆円近い赤字国債を財源とした歳出予算を組み,当初予算と合わせて国債発行額は90.2兆円,収入のうち借金の占める割合は56.3%となるに至りました。
想像もしなかった未曽有のコロナ禍で経済が疲弊し国民の生活が破綻しかかっている窮状を救うにはほかに道がなかったのだろうと思いますが,皆さんこの状況をどうとらえますか。というか,まずご存じでしたか?

「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」
私たちは原則として、年度の収入で賄えないほどの臨時的なものを除いて、現在の自分たちが収める税金の範囲でしか行政サービスを受けられない、それが「財政民主主義」に基づく「会計年度独立の原則」です。
税収が減り,入ってくるお金が少なくなれば,借金や貯金に頼るのではなく,今やっていることを見直し,収入に見合う支出まで削減するしかない。
このことは「借金をしていいのはどんな時」で述べた通りです。
この原則は国も地方も同じはずなのですが,国は赤字国債という禁断の魔法の杖を手に入れ,国会の議決を経て国民の合意を得ながら毎年せっせとお金を借りて国民が求める施策事業にそのお金を使い,開いた口のふさがらないワニの絵を国民に示すに至りました。

この原因の一端は当然,我々国民にあります。
昨日の投稿「バラマキがとまらない」で書きましたが,国が国民に配るお金は誰のお金なのでしょうか。


その原資は国が金庫にためているお金ではなく,私たちが納めた税金であり,それで足りない分は将来の国民が納める税金を前借しているのです。
私は地方自治体の財政について語るとき,いつも国が赤字国債を発行できる理由を正しく説明できません。
国がどれだけ借金しても日銀が引き受けるだけだから国はつぶれないという理論を解かれる方もおられますが,国の借金は国民が負う負債であり,いつかは国民が返済する義務を負っているとしか私には思えないし,だとすればこれ以上借金を負うわけにはいかない,今の国民の贅沢のために将来の国民の収める税金を先食いしてはいけないと真剣に思うのです。

地方自治体は現行法では赤字を埋めるための借金は恒常的にはできません。
しかし,コロナ禍で著しい地方税の減収が見込まれる中,その減収を補うための特例で借金が認められるというメニューは既に存在します。
この減収補てんの仕組みは臨時的なものとして創設されていますが,コロナ禍の影響が長期にわたり減収がすぐに回復しないという理由で毎年度「臨時的なもの」として恒常的なものになり(国の制度にはそういうものが多々あります),それが常態化して国と同じようにワニの口が開くのではないか。
そうなるかならないかは,これからの地方自治体の運営,つまりは市民の財政への関心の高まりと具体的な監視によって決まる,そういう意味で今は非常に大事な時期だと思っています。

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