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財政健全化が票になる

「首長(または議会)が財政のことをわかっていないので財政健全化が進まない」
これまでの出張財政出前講座でいただいたご質問やご意見の中にはこんなものがあります。

確かに一般的には,首長や議会から「あれをやってほしい」「これをもう少し拡充してほしい」と言われることはよくありますが,逆に「あれをやめるべき」「これをもっと縮小してほしい」と言われることはあまりありません。
逆に,事務方のほうから財政健全化のために事業の見直し,縮小を持ち掛けようものなら「要るものは要る」「お金が足りないならここではないどこかから工面しろ」と言われることが多々あります。
このように,財政健全化の取り組みが首長や議会によって骨抜きにされるという構造に苦慮する現場の声が,冒頭にご紹介した意見ということになります。

このご意見に対して,私はいつも逆にお尋ねしています。
その首長(または議員)さんと(自治体職員の)あなたとどちらの任期が長いですか。
首長(または議員)の任期に比べればあなたが退職するまでのほうがずっと長いのですから,いつか環境が変わり,きちんと理解してくれる人が権限のある座に就くまでしっかり備えてください,と。

本来であれば,首長に,議員に対して,財政の何たるかをきちんと理解してもらうプロセスをすぐにでも設けるべきなのでしょうが,質問者が一介の自治体職員の身分でそれだけのことができるはずがない(だからこそ,冒頭にご紹介したような愚痴めいた話になるのですが)ことは理解できるので,私も少しはぐらかした物言いでこのようにお答えしています。
しかし,ただ待っていたからと言って,財政に造詣の深い首長や議員が彗星のごとく現れ,自治体の財政危機に真正面から取り組んでその課題を解決していく,なんて夢物語がどこの自治体でも起こるはずはありません。
そこで,状況の打開を図るにあたり,なぜ一部の政治家たちはこういう一見不見識に見える行動をとるのかを考えてみましょう。

彼らも「財政が厳しい」という状況を言葉では聞いたことがあるはずですが,実際のところ何がどう厳しいのかがよくわかっていません。
私が職員向けに財政出前講座を始めたころは,講座のメインテーマである「なぜ自治体にはお金がないのか」という構造的要因については「職員ですらまるでわかっていない」という印象でした。
まして,政治家である彼らは選挙で市民に約束した公約や支持者から求められている要望の実現こそが自分たちの存在意義。
選挙で自らに託された市民の声を実現すべく,新たな予算を計上し施策を拡充することを求めがちです。
一方,事業の見直し,縮小を前提とする「財政健全化」は少なからず市民の痛みを伴うため,それ自体が市民から要望され,実現を約束する公約にはなりにくいことから,政治家は一般的にこの問題に関心が薄く,しっかりとは勉強されない方が多いのが実情です。
つまり,首長や議員が財政のことを十分理解せず「財政健全化は票にならない」と思っているとすれば,それは選挙で彼らを選ぶ市民自身が彼らにそれを強く求めていない,そのことを託していないということを意味しているのです。

しかし厳しい財政状況は待ったなしです。
税収が減る一方で社会保障費は増加,公共施設の老朽化による維持管理経費もかさみ,新たな政策に投じることができる財源は年々目減りしています。
市民が拡充を求める施策は多々あれど「あれもこれも」ではなく「あれかこれか」,何かを実現するには何かを手放さなければならない現状です。
そんな実情を「職員ですらまるでわかっていない」わけですから,市民が財政のことに関心を持ち,財政健全化の何たるかを理解してくれるはずもなく,それを実現してくれる首長や議員を選ぶことなど,一足飛びに実現できるはずがありません。

解決の糸口は,その財政構造そのものにあります。
何かを実現するには何かを手放さなければならない。
何かを手に入れたい人は,その代わりに何を手放すのか,それは新たに手に入れるものより大事なものなのかを考えなければなりません。
そのうえで,より大事なものを手に入れるためには何かを手放す痛みに耐え,それを乗り越えることが必要だということに気づきます。
何らかの施策を拡充したい,新たなものを手に入れたいという気持ちが強いほど,そのための財源を捻出するための施策事業の見直し・縮小にも自ら積極的に取り組み,その痛みに耐えなければならないという構造になっているのです。

政策実現のためには財政健全化が必須であり,それができない政治家は市民の期待に応えることができないことを政治家が本質的に理解すれば,必ず政策推進と財政健全化を表裏一体で論じて実現していくように行動を変えていくでしょう。
また,その構造を市民が理解すれば,市民はそのような行動をとれる政治家を選ぶようになるし,そんな風に賢くなった市民に選ばれるように政治家自身が変わっていき,「財政健全化が票になる」ようになる。
そう世の中が変わっていくはずだと私は信じています。

その証拠というわけではありませんが,この財政構造について説いて回っている出張財政出前講座には,自治体職員だけでなく一般市民,議員,首長さんたちにも私の講座をお聞きいただくことが増え,大変な反響をいただいています。
特に2018年12月に本を出版して以降は,自治体職員以外で私の本を読んだという方,特に地方議会の議員の方からの講座参加やSNSでの問い合わせが増え,票にならないと言われる財政健全化を勉強し,実践しようとする方が増えていることを実感します。
少しずつではありますが,確実に世の中が変化しつつある手応えを感じ,とてもうれしく思っています。
今後もし「首長(または議会)が財政のことをわかっていないので財政健全化が進まない」と嘆く方がおられたら,私が今感じている手応えをお伝えしたうえで「理解ある首長や議会が現れるのを待つのではなく一人でも多くの人に財政健全化についての正しい理解を広め、財政健全化が選挙で争点になった時には正しい理解をもとに政策を推進しようとする人が選ばれる世の中を目指してください」とお答えしたいと思います。

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2018年12月に本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。

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