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正論なんてくそくらえ

シーリングにどうしても収まらないって?
どうするの?こっちで査定すればいいって?
現場でどうすればいいのかわからないものを財政課でわかるはずがないじゃない!
#ジブリで学ぶ自治体財政

コロナの影響で税収が減り、一方でその対策にも経費を要する非常に厳しい財政状況の中、各自治体では今まさに予算編成まっただ中。
予算を要求する現場もそれを査定する財政課もかつてない苦しみを味わっている最中だと思います。
かつてない減収の中でとにかく予算規模を絞りたい財政課は容赦ないキャップをはめて現場から上がってくる予算要求の圧力を抑えようとしますが、財源が減ったからと言ってそう簡単に事業費を絞ることができないものもたくさんあり、現場と財政課で「要るものは要る」「ない袖は振れない」という激しいバトルが繰り広げられます。その板挟みにあうのが財政課の査定担当者です。

担当者は現場から予算要求調書を受け取り、内容を精査し、ヒアリングをして査定案を作り、これを財政課の中で課長、部長と上げていくのですが、財政課内ではみんな使えるお金の限界がわかっているだけに課長や上席の係長たちから「査定が甘い」「もっと削れないのか」「お前、少し甘いんじゃないか?もういっぺんやり直し!」と激しく攻め立てられることもありますし、一方で少しでも削りにかかろうものなら現場から激しい抵抗にあい「これ以上削ったらもう事業はできない。だったらお前がやってみろ!」とすごまれることもあります。
いったいどうしたらいいのか、財政課担当者の悲鳴が聞こえてきそうです。

私も10数年前、財政課で係長だった時は同じ状況でした。
コロナ禍の今ほどではありませんでしたが、当時福岡市の財政状況はさほど芳しくなく、現場と財政課の厳しい上席との板挟みで心身ともに擦り切れそうな毎日でした。
お金がないという全体の姿は理解しつつも、それぞれの現場の実情を知れば知るほど予算を削ることが難しくなり、どこまで査定で削ればいいのか、何が正解かわからなくて悩み苦しむ毎日でした。
しかし、ある時気がついたのです。所詮、財政課に何がわかるのだと。
財政課は自治体全体としてお金がないという全体像は知っていますが、それぞれの現場で本当にお金が必要な個所はどこで、何をどう削ったらどんな問題が起こるのかは、現場でしかわからないのです。

枠配分予算の始まったばかりの頃、ある局から「配分された枠に収めることができない」と泣きが入ったことがありました。
「じゃあ、枠に入っていない要求調書全部、いったん俺に預けてもらえる?」
私はそう言って調書を預かり、ほとんどヒアリングをせずに書面だけで査定案を考え、かなり厳しめに切り刻んだうえで財政課があらかじめ示していた枠に収めて局の担当者に返し、こう言いました。
「自分たちで枠に入れるのをあきらめたらこうなるよ。こんな風になりたくなかったら、この案で俺に削られた分を別のところで削って埋め合わせておいで」

無茶なやり方だと思われるでしょうが、これが案外うまくいきました。
現場の実情をいくらヒアリングで把握できたとしても、財政課で一つ一つの事業の細かい積み上げを見ながら費用を精査する際に「これは本当にここまで削っていいのか」という疑念を拭い去ることはできません。
もし仮にその査定が原因で問題が起きれば現場は「財政課が査定で削ったから」と言うでしょう。
だからと言って枠だけ配分しても現場同士で牽制が起こり互いに譲ろうとせず結局、局全体として枠に収めることができません。
ところが、とりあえずこちらで仮の優先順位をつけ、経費精査のルールを定め、無理やり枠にはめ込んで「私が局長だったらこうします」という仮の査定案を示したところ、不思議なことに「それは違う。そうするくらいならこうしたほうがいい」と対案を考えてきたのです。

私が示した仮の査定案は、短期間で書面だけで判断したもので、理屈は通るようにはしていましたが、決して現場の納得がいく正しいものではありません。
私がその案で心がけたのは、現場では削りにくいところ、理屈では削れても市民や議会に説明しづらいところに容赦なく査定を入れ、このままの案で予算案として議会に上程されては困るというかたちにしておくということ。
もちろん、それが絶対的な正解だと押し付けるつもりは毛頭なく、与えた枠を守ることが可能だと示したうえで、局の中で現場同士で議論し自分たちなりに納得がいく解を導くために「否定すべき案」として示すのです。
承服しがたい「否定すべき案」を示すことで「ここを削られるくらいならここを削ったほうがまだマシ」という局内での議論を起こしやすくし、現場同士で話し合い、自分たちのお金の使い道を自分たちで決めるための荒療治としたのです。

予算は現場が使うものですから、財政課の理屈だけで現場に厳しい査定案を押し付けても、現場が回らなければ意味がありません。
ただ、お金がないのは事実で、これは現場がどれだけ騒ごうともないものはない。
ならば、使える上限を示して「最適解」を現場の彼らに考えてもらうしかない。
その「現場に考えてもらう」ための方法が「いったん俺に預けてもらえる?」というやり方だったのです。
自治体の将来を左右する大きな政策決定ではない、日々継続するルーティン業務の経費については、財政課の査定案と現場の要求案、どちらが正しいかを争うことにエネルギーを割いている時間はありません。
絶対的な正しさ、適切さを争うのではなく、与えられた財源の範囲でよりマシな案、最善ではないが最低限なんとかやれると思える案をそのお金を実際に使う現場で考えて最適解を導けるよう、時にはおだて、時にはなだめすかし、時には千尋の谷に突き落とす。
それこそが厳しい財政状況の中で、自治体全体として限られた財源を最も有効に使うために財政課が果たすべき務めなのではないかと思います。

財政課には頭が良くて弁の立つ役所の中でも優秀と言われる人材がたくさん集まっていますが、しょせん事業は現場にしかわからないことがあります。
それなのに「こうしておけ」と査定案を押し付けてもうまくいかないし、うまくいかなかった責任を財政課で負うこともできません。
頭がよく、プライドの高い財政課の皆さんはなかなか自分たちの能力の限界を認めたがりませんが、財政課が考える査定案は所詮机上の空論で、間違いなく事業の機微を知り尽くした現場が真剣に考えることには及びません。
机上で正しさを追い求めて迷うくらいなら、割り切って現場の脳みそをフル回転させることに注力してはいかがでしょうか。

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