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会計年度独立の原則

腹が減ってたから、余ってる食物は全部食べたよ。
料理は頼めばまだ出てくるんだろ?
後から来る奴はまた頼めばいいさ
#ジブリで学ぶ自治体財政

埼玉県新座市が「財政非常事態宣言」を発出しました。
2021年度予算編成において新型コロナウイルス感染症の影響で大幅な税収減が見込まれ,貯金を取り崩すことなどではこれまで同様の市民サービスを提供続けることが困難になったため,今後各種団体への補助金削減など様々な分野での事業費の削減を図ることについて市民に理解を求める内容になっています。



先日ご紹介した京都市もそうでしたが,新座市もこれまでの財政運営で無理をしていたこと,収入と支出の不均衡という課題を将来に先送りしていたことがコロナによる税収減でいよいよもたなくなってきたということのようで,今後同じような団体があちこちで出てくるだろうと踏んでいます。

新座市の宣言にはこう書かれています。
「近年の高齢化など社会構造の変化により、市の財政負担が増加していく中でも、従来どおりの市民サービスの維持・向上に努めてきた結果、平成20年代前半から毎年度の予算編成において大幅な財源不足が続き、不足する財源については、市の貯金にあたる財政調整基金や市有地の売払代金等で補填せざるを得ない状況が続いていました。
その結果、財政調整基金や売払い可能な市有地も年々減少し、もはや補填する 財源もなくなってきたため、平成30年度に財政健全化方針を策定し、本格的に 市財政の健全化に取り組むこととしました。
そして、この方針において、「毎年度必ず実施しなければならない事業費は、毎年度必ず入ってくる収入で賄っていける財政構造を構築すること(経常収支比率の改善)」及び「貯金(財政調整基金)の積増し」の2つを目標に掲げ、事務事業の見直しを推進し、将来にわたる安定した市民生活の確立を目指すこととしました。」

新座市では既に平成30年度には,財政健全化方針を策定しており、そこにはそれまでの財政運営のまずかった点,改めるべき点がきちんと書かれています。
それは「毎年度必ず実施しなければならない事業費は、毎年度必ず入ってくる収入で賄っていける財政構造を構築すること」です。
昨日の投稿でも書きましたが,地方自治法第208条第2項には「各会計年度における歳出は、その年度の歳入をもつてこれに充てなければならない。」とあり,原則としてある年度に必要な支出の財源は,同じ年度内の収入で賄うことになっていることはすでにご承知かと思います。
しかし,新座市の例でも,先日ご紹介した京都市の例でも,毎年の収入が減り,その状態が継続しているにもかかわらず,毎年行っている行政サービスを見直すことよりも,貯金の取り崩しや資産の売却,あるいは京都市では将来の借金返済のために貯めていた基金から一時借用して財源不足を補填するという資金繰りを優先していたのです。

以前「貯金はどのくらいあればいい?」で書きました。



家計に例えればわかる話です。
毎月の収入が30万円しかないのに毎月50万円の贅沢な生活はできません。
毎月決まった収入が30万円の人は,毎月必要な経費は30万円の範囲でやりくりしないといけないということです。
それを貯金があるからと言って,毎月取り崩して食費や家賃など毎月必要なランニングコストに充てていけば,貯金がなくなった時点でその生活レベルを維持することはできなくなります。
月収50万円だった人が月収30万円になり,それが一時的なものでないのであれば,一時的には貯金で食いつなぐにしてもいずれ月収30万円にみあう生活水準に落とさなければいけないのです。

昨日も書いたように,新座市や京都市では,自治体として行うべき(と判断した)施策事業に必要な支出を行うことが前提とされ,それを各年度に必ず入ってくる収入の範囲内で行わなければならないという原則が軽視されてしまった結果,そのツケは将来の市民に回されました。
毎年度入ってくる収入が減った後も基金や資産の処分で財源を補填し,毎年度の収入を上回る支出により住民が受けた行政サービスは,収めた税よりも過剰なサービスを受けていると言えます。
その財源の補填として過去からの貯金や資産の食いつぶしたことで,将来の市民が仮に災害等で臨時的に収入が減少,あるいは緊急な出費が必要になった場合のバッファーがなくなってしまいました。また京都市の場合は借金返済の期限が到来した際に市民が納めた税金を借金返済に充てざるを得ず,その時点での過去にさかのぼって財源補填した分、すなわち過剰な住民サービスを享受した分まで将来の行政サービスを縮小せざるを得なくなりました。これまでの市民の贅沢のツケを将来の市民が払うことになったのです。

なぜこのような事態を回避できないのでしょうか。
地方自治体の会計は,手元現金の出納を管理するだけの単式簿記であることが理由の一つかもしれません。
自治体の会計処理では,基金を積み増すときは「支出」,基金を取り崩すときは「収入」ととらえるだけで,予算決算において現金収支の帳尻が合えばよく、資産や負債の状況つまり民間企業でいえば貸借対照表がどうなっていても構わないという状況に慣れ切ってしまっていることは問題でしょう。
しかしもっと問題なのは新座市の財政健全化方針にも掲げられている「毎年度必ず実施しなければならない事業費は、毎年度必ず入ってくる収入で賄っていける財政構造を構築すること」つまり会計年度独立の原則の本当の意味を理解していないことです。

会計年度独立の原則は、憲法第83条から第86条に定める「財政民主主義」の思想を具現化したものだと私は捉えています。
財政民主主義とは、国家が財政活動(支出や課税)を行う際は、国民の代表で構成される国会での議決が必要であるという考え方で、これに基づいて、国及び地方自治体は単年度予算主義を採用し、年度ごとに国民、市民から徴収する税金の額とその使途を国民、市民の代表に問いかけ、賛同を得ているのです。
債務負担行為や繰越など、年度を超えて支出することをあらかじめ決定することが例外とされているのは、将来の国民、市民の持つ予算編成権に対する越権、侵害行為となるからであり、別に詳しく述べますが将来にわたって負債を負う「借金」の使途が限定的なこともこの考えに基づいているのです。

私たちには、現在の自分たちへの行政サービスのために過去の資産を食いつぶす権利も、将来の市民が収める税金を先食いする権利もありません。
私たちは原則として、年度の収入で賄えないほどの臨時的なものを除いて、現在の自分たちが収める税金の範囲でしか行政サービスを受けられない、それが「財政民主主義」に基づく「会計年度独立の原則」なのです。

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