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自分で選んだ道だから

毎月の赤字補填で貯金もなくなってきたから
このままだとケータイのプラン見直さないといけない
これ以上バイト入れられないし仕送りもないのに
最近ちょっと使いすぎちゃったかなあ
#ジブリで学ぶ自治体財政

自治体は黒字確保を目標とする必要はありませんが、収支の均衡は至上命題。
支出が収入を上回ることがあってはならず、収入はコントロールできない部分が多いので支出側で調整しています、という話を昨日書きました。
ではよく言う「自治体の経営破綻」ってどういう状態を指すのでしょうか。

民間企業の経営破綻は資金繰りの悪化で事業継続ができなくなることを指しますが、自治体は法に特別の定めがある場合を除いて、そもそも資金繰りのための借り入れを行うことができませんので、収入の見通しが下方修正された時点で破綻危機が顕在化します。
しかし、民間企業と違い、事業継続が困難だからと言って事業を終了し法人そのものを解散してしまうことはできません。
そこで、多くの場合は収入の範囲内で賄えるよう経費を絞り込み、自治体として担うべき最低限の事業を継続することになります。
つまり自治体は、収支均衡が果たせなくなった結果、自治体が存続した状態で多岐にわたる自治体業務の一つ一つについてその内容やサービス密度を極力抑え、その自治体が確実に見込むことができる収入の範囲に経費を抑え込むためにサービス水準を切り下げる、という事態に陥ることになるのです。

自治体の破綻と言えば、北海道夕張市を思い出す人が多いと思います。
産業構造転換期の財政運営の失敗のツケを不適正な会計処理による資金繰りで粉飾し、十数年にわたってその顕在化を回避してきた夕張市は、標準財政規模の8倍、350億円余に膨れ上がった赤字を解消することができずに財政再建団体(後に財政再生団体)となりました。
累積した負債を帳消しにするための地方債発行が特例的に認められましたが、国からの直接的な財政支援はなく、夕張市が経常的に見込むことができる収入の範囲で自治体業務を行いながら負債も返済する財政再建計画が国の指導の下で立てられました。
この計画を遂行するため、市税や公共料金の引き上げなど新たな市民負担を求めつつ、図書館、美術館の廃止、市立病院の縮小、小中学校の統合、半数以上の職員削減と職員給与の大幅な引き下げなど、自治体業務の大幅な縮小、コストカットが国の厳格な管理のもとで進められました。
「全国で最高の負担、最低のサービス」とも揶揄される苦しい台所事情は今も続いています。

「うちは夕張みたいなことになりません」
多分、どの自治体の財政担当も同じ台詞を口にするでしょう。
しかしそれは、夕張のような不適正な会計処理を行わないから十数年にわたって巨額の負債が累積することはない、というだけであって、収支均衡が困難な場合に各年度の収入が支出を上回らないように支出を切り詰めていく際には市民負担を求めるか行政サービスの切り下げを行うしかない、という状況は夕張市も他の自治体も変わりはなく、その負担や切り下げの程度がどれほどのものか、という差でしかないのです。

先日から何度か取り上げている話題ですが、毎年必ず入ってくる経常的な収入が減り、毎年必ず必要な経常的支出との均衡が図れずに過去に積み立てた基金を取り崩している自治体は、その取り崩し額がなくなった場合に単年度の収支均衡をどうやって図るかを考えてみてください。
基金が枯渇した段階で同等の収入が見込まれなければ、毎年取り崩していた基金相当額のコスト削減のために、新たな市民負担を求めるかサービス縮小を選択しなければいけないということです。

取り崩しの額が毎年10億円なら10億円分のサービスを止めなければいけない。
職員人件費に直すとおよそ150人分です。
年間の市税収入が100億円の自治体が、毎年10億円の財源不足を基金取り崩しで賄っているとしたら、市民が今収めている市税が全て10%上がると考えればわかりやすいかもしれません。
しかもこの金額は、あくまでも自治体が単独で負担する金額の話です。
例えば国の補助が50%ある事業を止める場合は、市の負担を10億円減らせば国の補助金も10億円減りますので、20億円分の事業を止めなければ市の財源として10億円を生み出すことができないのです。

自治体の破綻ということが起こり得るのか、それはどのような状態なのかが想像できないという方がたくさんおられます。
それは、自治体の存在自体が永続的なものととらえられており、破綻によって消滅することがないという感覚に支えられているようです。
実際に、財政破綻しても自治体は存続しますが、その業務の内容は収入に見合う規模に切り捨てられ、その負担は市民が負うことになります。
しかも、民間企業であればメインバンクや親会社、あるいは新たな資本提携先が支援してくれるようなこともありますが、夕張の例が示すように、自治体が財政運営に失敗した場合には、その苦境からの脱出を国も他の自治体も直接的には助けてくれません。

なぜなら、それはその自治体の市民が自分で選んだことの結果だから。
毎年度の収入をどのような支出に充て、市民が行政サービスを享受するか。
そのサービスに必要な経費について、市民にどの程度負担を求めるか。
過去の資産をどれだけ取り崩し、後世にどの程度美田を残すのか。
これらはすべて市民が選んだ首長と議会で議論し、決めてきたこと。
市民が、自分が受ける行政サービスの水準や市民負担に疑いを持たず、自分の自治体の収支均衡に関心を持たずに過ごして来たことの結果なのです。

赤字を借金でいくらでも補てんできる国の将来については、その借金が本当に返せるのかという意味で心配ですが、赤字を借金では補てんできない自治体の将来も心配です。
人口減少に伴う税収減や高齢化に伴う社会保障費の増等によって、近い将来に収支均衡が保てず基金残高も底をつくという財政破綻が起こることを現実的に心配しなければいけない自治体が今後増えてくるでしょう。
その兆しをいかに察知し、いかにその傷が深くならないように修復していくか。
そのための情報発信と共有、そしてその情報を読み解く力が求められています。

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