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議論して決める責任

このお金の使い道 私が決めるの?
難しい話は全部私に決めさせるのね
頼むよ 君の案なら無条件に賛成する
責任を取りたくないってわけじゃないよ
正直 どうしていいかわからないんだ
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨年から今に至るまで、新型コロナウイルス感染症への対応のため、自治体の財政担当者は年中予算編成作業に明け暮れていたことと推察いたします。
当初予算編成時には全く想像もつかなかった感染症対応業務の激増に加え、公共施設の休館や各種イベントの中止、小中学校の一斉休校など行政サービスの予期せぬ変更が目まぐるしく起こり、その対応に追われました。
また、経済活動への影響も多大で、自治体独自、あるいは国の支援メニューを活用したものなど、様々な形で市民生活や企業活動の支援が行われました。
そのほとんどが自治体からの予算執行を伴うため、当初予算では措置されていなかったものについて予算を補正する作業が年中行われていたというわけです。

1年間にわたる収入支出の計画である当初予算案に盛り込まれていない予算が年度中途で必要になった場合は、原則として当初予算の収入や支出の金額、内容を「補正」し、議会の議決を受けることになります。
日本の多くの地方自治体では議会を年4回定例的に開催しており、通常、補正予算案の議会上程はこのタイミングに合わせて行われることがほとんどですが、今回のコロナ対応のように急を要する場合は、補正予算の議案審査のために、通所の定例会が行われていない時期に議会の臨時会を招集する必要があります。
議会を開く余裕がないときには、首長が地方自治法に定める専決処分を行い、次の議会でその内容について報告し承認を得るという手続きがとられます。
令和2年度におけるコロナ対応での補正予算は、緊急性を要する事案が多く、年4回開催される定例会だけではタイミングを失するということで、全国の自治体で臨時会の開催や専決処分がかなり多用されました。

昨年9月の報道によると、九州の自治体では昨年2月から8月の間に福岡県を除く6県が専決処分を行い、九州の233市町村のうち184市町村が同様に議会の議決を経ずに首長の専決処分により予算補正を行っています。
「コロナ対策予算「専決」相次ぐ」(西日本新聞2020年9月22日付社説)
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/647055/
この報道でも指摘されているように、専決処分はあくまでも議会開催の時間的余裕がない場合の緊急措置です。
事後の報告を承認することにより議会のチェックを行う仕組みであるとはいえ、いったん専決処分された予算は首長が適法に執行できるため、仮にその使い道が偏っていたり、市民の求めるものと相違していたりした場合でもそれをあらかじめ止めることができません。
全国の自治体で行われた専決処分がその後の議会報告でどのように審査され承認されたのか詳しくは承知していませんが、首長が裁量権を乱用し議会がそれを止めることができなかったような事案はなかったのか、あるいは議会が責任を回避するために自らの審査権限を放棄し、首長に危機管理を丸投げしてしまうというような背景がなかったのか、という点は検証する必要があるでしょう。

このような緊急対応について議会が予算の執行権限を首長の裁量にゆだねるケースとしてはほかに「予備費」があります。
不測の事態に対応するためにあらかじめ一定額の「予備費」を予算に計上して議決を受け、具体的な対策が必要になった際に首長がその裁量権で予備費をそれぞれの事業の予算に充当していくという方法です。
国は令和2年度の予算補正においては、当初通常年度に計上している額と同額の5000億円(歳出総額の0.5%)だった予備費を4月の1次補正では1兆5000億円(補正予算額の5.8%)、5月の2次補正では10兆円(補正予算額の31.3%)を追加し、予備費の総額は12兆円に達しました。
これは2次補正後の歳出総額の7.5%にあたります。
2次補正では30兆円規模の予算補正が行われましたが、そのうち10兆円は国会でその内容を事前にチェックすることなく、政府にその執行権限を全面的にゆだねたわけです。

自治体もおいても同様に、臨時会や専決処分による予算補正で予備費をいったん積み増しておいて、その後、首長の権限で施策を具体的に立案し柔軟に執行していくというやり方をとった例もあると聞き及んでいますが、国のやり方も含め、私は首をかしげざるを得ません。
どこまでを首長が裁量で処理し、どこから先が議会の議決する権限の範疇とするのかという線引きは、最終的には市民がどこまでを首長の裁量に求め、どこまでを議会の議論に委ねたいかによりますが、いくら迅速な対応が求められるからと言って、相当な金額の予備費を予算計上してその裁量を首長に全面的にゆだね、その後首長の側で立案される施策の妥当性や効果について事前に全く議会が議論しないというのはいかがなものでしょうか。

議会で首長と議員が、あるいは議員同士が議論し結論を導く機能は、議会の最も基本的な機能である「代議」、すなわち各議員が市民の意見を代理する機能です。
その場をあえて開かず結論を首長の裁量にゆだねるのは、市民から議会に託された「代議」の委任をないがしろにすることになりかねません。
首長も選挙で選ばれた有権者の代表ですが、地方自治体が二元代表制をとっている以上、その車の両輪である議会もまた市民の代表であり、その受任にふさわしい権限と責任を行使してほしいと思うのです。
せめて一日でも臨時会を開いて、議案審査を行うことはできないのでしょうか。
それは予備費の話だけではなく、先ほど述べた専決処分も同様です。

災害発生時の応急復旧など、政策的な議論のないものでかつ迅速な対応が求められるものであれば、専決処分でも予備費でも構わないと思います。
しかし、今般のコロナ禍という未曽有の体験にどう対処し、どう乗り越えていくのかという方法論は誰もがまったく未経験であり、その方策についてあらかじめ定まった定石は存在しません。
そのような状況であればこそ、どうしていいかわからない市民の不安を払しょくし、市民が安心して行政の施策に自分たちの現在や将来を委ねることができるよう、自治体運営の専門職である議員が市民の不安を代弁しつつ、それぞれの知見を活かしてより良い案を首長と議論し、その合意形成の過程を市民に示していただきたい。
議会が首長の追認機関と揶揄されないためにも、自分たちが議論し賛否を表明することにより結論を導いたのだという自負に裏打ちされた議決を示すことよって、市民から託された「代議」の責任を果たしていただきたいと思います。

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https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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