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誰が負担してくれるのか

赤字の収支均衡を図るために
料金を上げずに繰り出すなんてごまかしよ
基準外繰出を増やすのなら
いっそ料金タダにして全部税金で賄えば
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
私たちの生活を支える社会基盤や公共施設の多くは、国や地方自治体が整備し、管理しています。
これら公共施設の多くは私たち市民が納める税金で作られ、管理されているというのが皆さんの常識ですが、実は税金だけではなく「使用料」「料金」のように、施設を使う際にその使った時間や回数、量に応じてその施設の整備や維持管理に要する費用を負担する「受益者負担」という考え方が採られているものもあります。
民間の施設、サービスであればこの「受益者負担」が料金として利用者から徴収され、その収入を財源として整備費や管理費が賄われますが、公共が提供する施設やサービスは、受益者負担だけで独立採算が保たれるものはなく、必ず受益者でない市民、国民からの負担、つまり税金が財源として投入されています。
これは結局のところ、施設を使う人が払う金額を下げるために施設を使わない人が肩代わりしているということなのでしょうか。
 
確かに受益者の負担だけでその施設、サービスを維持しようとすれば、受益者が負担する使用料や料金が高くなりすぎて受益と負担のバランスを欠く一方、広く市民、国民が税金で負担すれば受益者がその利用のたびに負担する使用料、料金が下がりますので、施設を使う人の負担を使わない人が肩代わりしているという風にも見えますが、これは誤った考えです。
公共施設はそもそも、そのまちに暮らし働く市民の生活や経済活動の基盤としてすべての市民が広く一定の負担をして整備する市民全体の共有財産であり、利用者からの料金徴収で独立採算が成立するものであれば公共が手を出す必要はありません。
ただ、その施設の提供するサービスの性質から、利用頻度、受益の程度が市民それぞれで大きく異なる場合に、その利用による受益に応じて相応の負担を求めているのが「使用料」「料金」なのです。
 
この「使用料」「料金」と市民が広く負担する税金とのバランスは様々です。
多くの公共施設は税を財源とする一般会計で整備、管理され、基本的には市民全体で広く負担して施設サービスを提供したうえで、使用料を一般会計の歳入として計上してこの施設運営経費の特定財源として充てることで税負担の軽減を図っています。
水道や下水道、市営バスや地下鉄など地方公営企業と呼ばれるものは、料金収入による独立採算を原則とした会計を別に立てたうえで、国が定めた基準に則り、税で負担すべき領域に要する金額を一般会計から繰り出してその財源を税で負担することで、税と受益者負担のバランスを保っています。
また、施設整備・管理ではありませんが、国民健康保険や介護保険、後期高齢者医療といった社会保障制度についても、受益者から徴収する保険料で支出を賄う特別会計を設け、ここに国が定めた基準等に基づく一般会計からの繰り出しを行うことで広く市民全体で制度を支える仕組みとしています。
 
ここで問題となるのが、税と受益者負担、この両者のバランスの適切性です。
物価高で施設の維持管理コストが上昇した場合に、コスト上昇に見合う使用料値上げをするならその上昇コストは受益者が負担することになり、値上げしないなら税で広く市民が負担することになります。
施設利用者の負担軽減を図るために料金の減免を行っている場合、その減免相当額は税で広く市民が負担していることになっています。
使用料や料金は直接利用者から利用の都度納めていただくことから値上げについては可視化されやすく、批判を避ける観点から可能な限り回避したいと考えるのが為政者の本音でしょう。
また、減免は本来、利用者の経済負担を軽減する観点から行うものなので補助金の交付によっても同等の効果は得られますが、その歳出予算の確保における財政課等内部の調整や支出事務の手間を考え、減免という手続きに走りがちです。
税で負担することとすれば、一般会計の収入全体がもろもろの事業財源に充当される中に溶け込み、市民が負担しているという感覚も薄まってしまうため、使用料や料金での負担を求めずに税負担に逃げるという例も散見されます。
このような財源の構造、税と受益者負担の関係性は正しく市民に理解されているのでしょうか。
 
税だろうと受益者負担だろうと、市民が負担していることに変わりはありません。
公共施設はそもそもすべての市民が広く財源を負担し整備している市民共有の財産であり、その負担を税で広く市民が負うことについては整備の当初からコンセンサスがあったものと考えるべきでしょう。
しかしながら、そのコンセンサスの中にあらかじめ受益者負担の概念が盛り込まれていたのであれば、特に公営企業会計においては国が定めた繰り出し基準があるのですから、その考え方との整合については意識しておく必要があり、コスト増や政策的な減免などに伴う負担を広く市民に求めてよいものかしっかりとした議論が必要だと思っています。
先日の能登地震の報道でも、上下水道の耐震化が進まないのはその費用が料金に跳ね返るから進捗しなかったとの報道がなされていましたが、そもそも繰出基準の中で料金に反映できる部分と繰出金として税で賄うものに分かれているわけで、その基準をベースにしながらも料金への反映をせずに基準外繰出を行い税で広く負担するという方法もあったわけです。
 
今、全国で水道事業会計の収支均衡が危ぶまれています。
資材費、労務費の上昇や施設老朽化への対応といったコスト増要素に加え、人口減少により使用水量が減少し、支出に見合った収入を確保することが困難になっていることが原因ですが、料金引き上げを回避するために一般会計からの基準外繰出を増やして税負担で乗り切ろうとする自治体もあり、水道というインフラサービスのどの部分のコストが広く税で賄われるべきシビルミニマムかという議論が行われる局面に来ています。
公営交通において赤字路線を維持するための行政支援も、国民健康保険料の引き上げを回避するために行う基準外繰り出しも同じことが言えますが、私たちが利用する公共サービスはすべて利用者による受益者負担と私たち市民からの広く薄い税負担で賄われています。
そのバランスのあるべき姿は、地域ごと、事業ごとに異なりますし、時代背景、社会環境によって変化し、特に税負担の変化は直ちに市民一人ひとりの財布に響くものではなく、自治体の一般会計全体の中で他の施策事業に投じられている財源とのバーターになっており、税負担を増やすということは何かの施策事業への財源充当を減らすという構造になっていることも併せて理解しなければいけません。
公共施設、公共サービスにかかる使用料、料金についてはこのように複雑に絡み合う連立方程式を解く必要があり、そのなかで施設やサービスを支える経費負担のあるべき姿、すなわち誰かのお金ではなく、自分の財布の中のどのお金で負担するのか、という点をジブンゴトとして真摯に議論しなければならないのです。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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