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真摯誠実な議論を望む

もっと赤字国債を発行して国民を救え!
国の借金は国民の資産なのだから心配することはない
お金が足りなければ刷ればよい
借金でわが国が破綻することなどありえないのだ!
#ジブリで学ぶ自治体財政

令和3年度の国の当初予算案が固まりました。
令和3年度当初予算における国債の新規発行額は43.5兆円。
令和2年度当初予算が32.5兆円だったのが3次補正分まで含めて112兆円に膨れ上がり,さらに当初で10兆円以上の上積み。
この2年間で150兆円以上の新たな借金を抱えることになりました。
これまでも「開いた口がふさがらない」「二匹目のワニの口」で,国が歳出圧力を抑えきれず赤字国債頼みの財政運営になってしまっていることについての懸念を述べていましたが,その“懸念”は“危惧”のレベルに引き上げざるを得ません。

冒頭のセリフで掲げた「国債で国は破綻しない」という主張については,積極的な財政支出を求める経済評論家の方々が説いている理論であり,これまでの私の投稿へもその趣旨でのご意見をいただいています。
その理論そのものにも十分な納得感はないのですが,そもそも経済理論は経験則と経済原理からなる予想の世界なので,実際にどうなるのか,どちらが正しいのかを争っても意味はなく,またどちらが正しくても,それを言い当てることができなかったからと言って,私もあまたの評論家の皆さんもなんら責任を取る必要がないという意味で,今日の論旨からは外しておきたいと思います。

私が,この件で最も問題だと思っていることは,政府自身がこの赤字国債大量発行をどうとらえ,どう対処していこうと考えているのか,を明らかにしていないことです。
コロナ禍という未曽有の災禍の中で,国民の生活を守るために財政出動が必要だということは私も理解していますが,一方でこれだけ新たに借金をして,国家財政は大丈夫なのか,自分の将来,あるいは次世代の国民に負担を負わせているのではないかという私(国民)の懸念,危惧に対して,国の財政運営を預かる責任者としての公式見解が欲しいのです。
もちろん経済再生,国民生活の安定は必要ですが,その大合唱にかき消されてこれまでの経済危機で繰り返されてきたように財政運営の持続可能性についての議論が聞かれなくなってしまうことは,今度こそあってはならないと私は強く思うのです。

これは別に,私の個人資産がどうなるかとか,私の老後の人生設計がどうなるかというプライベートな視点での興味ではなく,国の財政運営の失敗が引き金となって,国が担っている社会保障その他国民生活を支える行政サービスの量や質が影響を受けないか,あるいは経済が混乱し企業の経済活動や労働市場に影響を及ぼすことで社会不安が増大しないか,ひいては物価や金利の上昇,金融資産の価値減少など個人の日常生活への影響に懸念はないのか,といった,社会全体への影響を考えての興味関心です。

以前投稿した「会計年度独立の原則」で私はこう書きました。


会計年度独立の原則は、憲法第83条から第86条に定める「財政民主主義」の思想を具現化したものだと私は捉えています。
財政民主主義とは、国家が財政活動(支出や課税)を行う際は、国民の代表で構成される国会での議決が必要であるという考え方で、これに基づいて、国及び地方自治体は単年度予算主義を採用し、年度ごとに国民、市民から徴収する税金の額とその使途を国民、市民の代表に問いかけ、賛同を得ているのです。
こう考えると、債務負担行為や繰越など、年度を超えて支出することをあらかじめ決定することが例外とされているのは、将来の国民、市民の持つ予算編成権に対する越権、侵害行為となるからであり、別に詳しく述べますが将来にわたって負債を負う「借金」の使途が限定的なこともこの考えに基づいているのです。

まさに今「財政民主主義」の視点から,赤字国債について国会で真摯に議論し,政府が誠実に見解を示す姿勢が問われていると思います。
以前は,赤字国債の発行については毎年度,予算議案とは特例法を議案として国会で審議し可決する必要がありましたが,2012年に東日本大震災を契機に成立した「財政運営に必要な財源の確保を図るための公債の発行の特例に関する法律」で複数年度の期間を法律で定め,その期間内については各年度予算について国会の議決を経た金額の範囲内で赤字国債を発行することができるようになりました。
現在の法律ではこの特例期間は2016年度から2020年度までとされており,2021年に赤字国債を発行する予算を成立させるためには,この期間を定めている現行法の改正が必要になります。

また同法第4条では「政府は、前条第1項の規定により公債を発行する場合においては、平成32年度までの国及び地方公共団体のプライマリーバランスの黒字化に向けて経済・財政一体改革を総合的かつ計画的に推進し、中長期的に持続可能な財政構造を確立することを旨として、各年度において同項の規定により発行する公債の発行額の抑制に努めるものとする」とされており,この条文改正を行うにあたって政府は,プライマリーバランスの黒字化を目指すのか,目指すとすればいつまでにどのような手段(歳出削減,歳入増加)で実現するのか,を明らかにする必要がありますし,もし仮に前述の「国債で国は破綻しない」という論に立つのであれば,「なぜ破綻しないのか」「国民生活への影響はないのか」という懸念,危惧を払しょくする説明責任を果たす必要があります。

予算案の審議と言えば,支出する予算の金額や使い道についての議論が中心となるのが常ですが,巨大な債務残高を抱え,さらに新たな借金をしないと必要な支出予算が組めないという状況であれば,収入についてもっと国会での真摯な議論を深めていただきたいですし,我々国民も今国会こそそのことを注視しなければならないと思っています。
地方自治体の予算審議についても同様です。
令和3年度当初予算において,税収減等で収入が不足する補填としてどのような財源対策を講じているのか,その方策は将来に向かってどのような効果を生じさせているのか,将来の市民にいたずらに負担を負わせていないか,将来の行政サービスの量や質に影響を及ぼさないか,という視点での議論が不可欠になる,ということを今のうちに肝に銘じておきたいと思います。

コロナは本当に私たちが見たくないもの,目を背けてきたものを直視させてくれますね。

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