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出てこい新規事業

企画がOKしても財政はNGってなぜ
予算がついても増員できるかは
保証できないって人事は言うし
このまちの舵取りをしてるのは誰なの
#ジブリで学ぶ自治体財政
 
9月に入り、各自治体でもいよいよ令和7年度予算編成が始まったようですね。
各課から財政課に調書を提出してヒアリングが始まるのは11月頃ですが、財政課からの予算編成方針や要領が各部局に示され、部局内で予算に関する議論を具体的に始めるのがこの季節になります。
この時期、財政課が財源不足とは別に毎年頭を悩ませるのが「新年度の目玉事業の掘り起こし」です。
予算編成方針に「限られた財源を有効に活用し真に必要な事業への選択と集中を図る」と掲げているのは、これまで政策決定されてきた経常的な事業を粛々とやっていくだけでなく、財源を充当すべき施策事業の優先順位の最適化を図り、既存事業の見直しを進めることで、政策の推進、新たな社会課題への対応に資する新規、拡充事業へと財源を振り向けることが財政運営上の命題だという意味です。
 
ところが座して待てども政策の推進、新たな社会課題への対応を担う現場からは新規事業がなかなか上がってきません。
既存事業で人も予算も手一杯、新たな事業の企画に手間暇をかけ、せっかく積み上げた予算要求を、新規だという理由で厳格に査定され跡形もなく全否定されるくらいなら何もしないほうがまし、という苦い思いが現場にはあるのでしょう。
福岡市では、新規事業を予算要求する際にその財源を生むためにあらかじめ配分した枠に含まれている既存事業を見直すこと(ビルド&スクラップ)を求めていますが、この枠配分予算の例外として、総合計画(マスタープラン)の実施計画である政策推進プランに掲げる重点事業を補完するものとして当年度に特に重点的に取り組むべき施策分野を「強化施策」と名付け、この分野の施策を推進するための新規事業については配分された枠の外側で所要額を要求してよいことになっています。
既存事業を見直すというひと手間がない分、新規事業を要求しやすいのではないかと思うところですが、実際にはそれほど手が上がってこないのが現状です。
 
ならば新規事業がなくてもいいと割り切ってしまえばよいのですが、行政が取り組むべき課題は山積しており、これらの課題に真摯に向き合い「真に必要な事業への選択と集中」を図った証として、新年度予算にいくつかの新規事業を並べ、その施策充実や新たなチャレンジを通して市民福祉の向上を図りたい。
その意欲を表明し、市民の皆さんに期待感を以て受け止めてほしい。
そういった思いから、査定で削るばかりでなく、新規事業のタマもしっかり磨いて弾込めしたいと願うわけです。
もともと、財政課の仕事というのはかなり受け身で、現場から提出される予算要求に対して必要性や効果について疑問を投げかけ、あるいは積算根拠を精査して金額を削っていく、なるべくお金をかけたくないという心理モードで事業の査定を行うことがほとんどです。
そんなマイナス思考が染みついた財政課が、ゼロから新規事業を発案してそれを現場にやらせるなんてこと、ありえないしできっこありません。
せめて現場からアイデアが出てきてくれれば、その改善提案くらいであればちょっと気の利いた財政課職員ならできるとは思うのですが、そもそも財政状況が厳しいという理由で既存の継続事業でも上限を設けて費用の削減を求めるわけですから、どうぞ存分に新規事業を発案してください、とはなりません。
このあたりの難しい立ち位置の中で、どうやって現場から新規事業を発案してもらうかということに毎年悩んでいるのです。
 
しかし考えてみれば、現場で新規事業の企画立案がなかなか進まないのは何も財政課の予算査定が厳しいという理由だけではありません。
公務員の心理特性として、失敗への批判を恐れ、新しいことに積極的に取り組むことを避ける傾向にあります。
また、新しい業務領域について自分の担当領域ではないとして殻にこもり、手を出そうとしないというのもよくある話です。
そうした心理的抵抗に加え、実際に新規事業をやるとした場合に予算がついたとしても、マンパワーが不足する、内外の協力が得られない、うまくいったときのプラス評価よりもうまくいかなかったときのマイナス評価のほうが大きいと感じる、などの理由から、新規事業に取り組む必要性は感じていたとしても、具体的な企画立案、予算要求に至らないのです。
 
この事態を打開するには、財政課の所管する予算編成上の取り扱いだけでインセンティブを持たせ、新規事業を要求する気を起こしてもらうことは困難で、新たな施策事業の立案・実施に関する現場の心理的不安を取り除き、新規事業へのやる気を高める仕掛けが必要になります。
ここで大きな役割を果たすのが自治体の総合計画を所管し政策全般の推進を司る企画部門。
先にも述べたように、財政課はどうしても限られた財源の中に施策事業を押し込めようとしてしまいがちで、新しいチャレンジについてもその推進力となるアクセルではなく、うまくいくのか、市民の賛同は得られるのか、経費は効率的かといったチェックを行い、事業を上手く離陸させ軌道に乗せるハンドルと万が一の場合にいったん立ち止まることもできるブレーキ、安全装置の役割を担うほうが日頃行っている業務の性質と親和性が高いからです。

何を優先的課題と位置づけるか、どのように取り組むべきか、といった新規事業の芽吹きのための伴走は予算編成が始まるまでの間に企画部門が積極的に絡み、立案段階が終わって予算要求が行われ、その内容を精査するところで財政課にバトンタッチする。
この役割分担がうまくいくよう、普段から企画部門と財政課が情報共有、意思疎通を図り、常に同じ方向を向いて協力し合える、現場が企画、財政のどちらにも気軽に相談できる間柄であることがとても重要です。
さらにこの両者に加え、組織定数や人事異動を扱う人事部門、首長のお世話や広報公聴を担う秘書部門が加わり、新規事業が首長の掲げる大方針の下で全庁一体となって推進され、必要な組織整備、人事配置が行われることが、財政課が予算編成方針で示す「真に必要な事業への選択と集中」の実現に不可欠な組織構造だというわけです。
 
予算編成は財政課だけの仕事ではありません。
官房部門が総力を挙げて現場を支え、「真に必要な事業への選択と集中」という巨大なパズルのピースをはめ込んでいく一大プロジェクトです。
まかり間違っても「企画はOKしたのに財政がダメだと言う」「予算はついたのに人がつかない」「俺は聞いていないと首長が怒っている」なんて現場泣かせの官房部門であってはいけません。
そうならないために財政課は今この時期に何をすべきか、考えてみてください。
 
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
 
★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
 
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