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やめられない止まらない

50%は国補助、残額の90%は借入れ、現金は額面の5%しかいらないんだ
これで最新型が手に入るなら、安いもんだろう?
#ジブリで学ぶ自治体財政

自治体の財政健全化の議論をするときに、時々「大型公共事業の中止・見直し」が話題に上ることがあります。
大型公共事業というのは、ホールや体育館、図書館等の規模の大きな公共施設の整備や、区画整理、再開発、水面埋め立てや宅地造成など一定の規模を持った都市基盤の整備を指す用語として一般的には使われています。
数10億円、数100億円という事業規模が庶民の目から見てあまりにも巨額なので、これが財政を悪化させている原因ではないか、これを止めれば財源が生み出され、収支不足が解消するのではないかという視点で、諸悪の根源のように語られるのです。
確かに大型公共事業は、その名のとおり大きな事業費が動きますので、自治体の財政に少なからず影響を与えることは確実です。
しかし、財政健全化の話題の中でこれを論じるのであれば、自治体財政への影響がいつ、どういうインパクトで訪れるのか、については十分理解しておく必要があります。

まず、大型公共事業を止めてもすぐには財源を生み出すことはできません。
以前「借金をしていいのはどんなとき」で書きましたが、地方自治体は原則として、道路や公園、学校などの社会資本整備のために借金をすることができます。


将来にわたって長く使い続ける社会資本の整備費用について、整備を行う時期の市民だけで負担するのではなく、その社会資本の便益を受ける将来の市民にも負担していただくことで世代間の公平を図る、との考え方によるものです。
将来の市民が使う社会資本を、整備するお金が貯まるまで待っていては、それまで不便な状態が続き、まちの成長を阻害するので、将来を見越して、住みやすいまち、働きやすいまちを創るために借金をして先に整備しているのです。

ということで、自治体のほとんどの公共施設整備や都市基盤整備は借金によって実施されています。
その多くの場合、事業費の全額を借金で賄うことはできないルールになっていますので、頭金のような意味合いで一部、事業年度にもお金がいりますが大半は後年度、借金の返済の際に金利と合わせて長期分割で負担していきます。
ということは、大型公共事業を止めても、その時点で残りの事業費に使う現金が手元に残るわけではなく、新たに借金をする必要がなくなり、その分後年度の返済がいらなくなるということなのです。
「大型公共事業を止めて福祉給付の充実を」という主張に現実性はありません。
福祉目的の給付は、その財源を借金で調達することができませんので、その年度に必要な支出予算の財源はその年度の収入で賄う必要がありますが、大型公共事業を止めても、現金が手元に残り、それを給付の財源に振り替えることができるわけではないからです。
大型公共事業の見直しは、あくまでも中長期的な財政負担を減らすという効果を求める際に採用すべき手法だと理解しておきましょう。

次に、大型公共事業を見直しても、事業費の全額について自治体負担が軽減されるわけではありません。
大きな公共施設整備や都市基盤整備は、ほぼ間違いなく国などの補助金による財政支援を受けています。
その割合は様々ですが、100億円の事業であっても例えば国から50%の補助を受けて実施する事業であれば、自治体負担は50億円です。
もし事業着手前に完全に止めたとしても、負担しなくて済む額は50億円で、残りの50億円はその事業に充てる財源として国が用意したお金がもらえなくなるだけで、それを国からもらってほかの事業に充てることはできません。
また、補助金を受けて実施している事業を途中で止めたり、出来上がった施設を補助目的どおりの用途に使わなかったりした場合は、既に交付を受けた補助金を返さなければいけなくなることがあり、かえって財政負担を増やしてしまうことにも留意が必要です。

さらに細かく言えば、市が事業主体となって区画整理や再開発などの都市基盤整備を行う場合、事業区域内の主要な道路、公園などの公共施設整備については通常の公共事業として自治体が負担しますが、区画道路や公開空地など、民間の宅地開発等では開発者が負担する部分の事業費については、事業によって生み出された土地や再開発ビルの床を売却処分して得られる事業収入で費用を賄うスキームとすることがあります。
この場合、事業全体が最終的に黒字になれば利益を得られ、赤字になれば損失を補てんする必要がでてきますが、このような事業スキームの場合、特別会計を設けて別途収支の管理を行い、事業終了時点で会計を閉鎖するにあたり、収支を清算するのが通例です。

従って、市の財政にどのような影響を与えるかは、事業終了にめどが立ち、事業で生み出した資産の処分によって収支がどう均衡するかが見えた段階でその負担の有無や金額がわかる仕組みであり、それがわかった時点では負担を拒否することができないというリスクを負っていることに留意する必要があります。
従って、このようなスキームの大型公共事業を財政健全化の観点からチェックするには、事業開始前にはその採算性を十分に吟味する必要がありますし、事業開始後は事業費が膨らんでいないか、見込んでいた収入が得られそうか、など事業の採算性が維持できているかを常にチェックしていくことが必要になります。

大型公共事業は、「大型」というだけあって、自治体への影響は財政面のみならず各政策の全般に大きな影響を与え、特に自治体の進める政策への寄与が大きいと期待されるものが実施されることになります。
規模が大きければ立案から政策決定、実施、完了に至る期間も長くなりますし、関係者も多くなることからその合意形成や利害調整も容易ではありません。
それだけ多くの市民の期待を集め、準備周到に始めた事業を途中で止めるというのは並大抵のことではなく、一度始めた事業は簡単には止まりません。
また、大型公共事業はその資金を国からの補助や借金、事業利益等で調達できる仕組みが整っているため、各年度の財政負担が少なくなり、単年度でいえば大きな財源を用意しなくても実施できるという手軽さがありますが、それは長期にわたってその事業を確実に遂行していくという前提で仕組みが整備されているのであって、その観点からも簡単には止めることができないようになっています。

だからこそ、始める前にその事業が自治体財政に与えるインパクトをよく知ったうえで、政策への寄与とのバランスについて十分に議論しておくことが必要です。
少なくとも借金で実施する部分は将来にその返済を負担することを確約することになりますし、収益性を前提とした事業の場合の収益悪化リスクも財政負担として想定しておく必要があります。
また、事業で出来上がった公共施設については、その維持管理はもちろんのこと、将来の大規模改修や施設の更新についても自治体による財政負担の想定をしておかなければなりません。
これらは事業に着手する段階で考えておくべきことであって、財政健全化について考えなければいけない時期に考え始めても、実はもう手遅れなのです。

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