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対話がくれる勇気

市役所〇〇課のくさかべさつきです
お招きいただきありがとうございます
そんなにかしこまらなくていいよ
肩書で役所を背負ってたら
聴きたいことも聴けないじゃないか
#ジブリで学ぶ自治体財政

昨日投稿した問題作「王様の耳を語れ」では,「統治能力を十分に備えていない首長」を頂点に据えた自治体が抱える闇について,市民がもっと良い自治体運営の果実を享受するために,私たち自治体職員は「こうすればもっと良い自治体運営ができる」と役所の外で勇気をもって語るべきではないか,と書きました。

表立ってコメントしづらい投稿内容だったにも拘わらず多くの方から共感をいただき,やはりこの問題は根深いものがあるなと感じた次第です。
誰もが総論では賛意を述べるこのことについて,実際には多くの公務員が口を閉ざしてしまうのはなぜか,どうすればその重い口が開かれるのかを引き続き考えてみたいと思います。

コメントをいただいた中に「選挙によって与えられた首長の正統性」への言及がありました。
選挙で選ばれたわけではない自治体職員が,選挙で選ばれている首長に異を唱えることは選挙によって市民から与えられた首長の正統性に異を唱えることになるのではないか,という懸念です。
しかし,有権者は選挙で何もかも首長に白紙委任したわけではありません。
首長に自治体運営のかじ取りを任せたものの,その権限行使にあたっては市民が選んだ議会のチェックを受け,あるいは市民が直接監視し,次の選挙での投票行動の参考とすることになっています。
たとえ選挙で一定の正統性を与えられた首長であっても,市民の期待に反する独善や専横,無計画な場当たりであれば許されないと考えるのが当然であり,そのような場面に遭遇した場合には職員の立場から自信をもって首長に意見することこそが,「中の人」である自治体職員に市民が求めていることでしょう。

しかしながら,自治体職員は首長を頂点に仰ぐピラミッド型の組織で働いており,下手にたてつけば組織内での立ち位置が危うくなると危惧する人もいるでしょう。
そういう人には「何のために公務員が身分を保障されているのか」と言わなければなりません。
政治から距離を置き,職務の公共性,行政の継続性や中立性を担保するために我々は身分を保証されているのですから,首長が自らの統治能力不足を捨て置き,政治的思惑から市民のためにならぬ振る舞いをしているのであれば,法令で保証された身分を盾に首長を諫めなければならず,その立場にありながらその義務を履行しないのは市民への背任行為になりかねないのです。
とはいえ,上意下達の組織で働いていれば組織の決定に従うのは当たり前で,上司である首長の命令や振る舞いに異を唱えることは容易ではありません。
そんな局面で「市民のために」と一歩踏み出す勇気を与えてくれるのは,自治体職員として「これは本当に市民のためになるのか?」と常に自問する客観的な視点と,その答えを自分で導ける知識,経験です。
現状の自治体運営に対して「こうすればもっと良い自治体運営ができる」ということに気づくためには「もっと良い自治体運営」の状態を具体的に知っていなければいけません。
このため,他の部局や他の自治体ではどう取り組んでいてどういう状態なのかをリサーチすることも必要ですし,これまでの経験から本来どうあるべきなのかをじっくり考え,その姿を自分なりに描いておくことも必要です。

そういった知識,経験の蓄積に加えて大切なのは,自治体運営の現状について市民がどう評価しているかを知ること,そしてその評価は自分が知っている事実に基づいているかを確認することだと私は思っています。
首長が舵を取る自治体運営の品質について常日頃からアンテナを張って情報を収集し,市民の満足や不満のありかを知っておく。
そのためには,役所の外側にいる市民の輪の中に自分なりの交友関係や人脈を築き,職場や立場を超えて忌憚なく意見を語り合える状況を作っておくことが大事になりますが,皆さんはそんな場,状況,交友関係を持っていますか。
公務職場で抱えた問題を「ここだけの話」と打ち明けることができる,公務員以外の立場の友人がいますか。
守秘義務の縛りは当然あるにせよ,自分が抱いた「おかしい」という市民感覚をぶつけて研ぎ澄ます「対話」の環境を自治体職員の皆さんはお持ちでしょうか。
多くの公務員が首長の能力不足を批判できないのは,この情報収集と対話のチャンネルが足りないことが原因なのではないか。
首長の能力不足,自治体運営の隠れた不備を,他に漏らすことができない愚痴や与太話として閉ざされた公務員ムラの中でひっそりと共有し,その傷をなめ合っているのではないか。
それは誤った現状を肯定し,その正統性を追認し,固定化してしまうだけ。
行動なき傍観は市民の期待に背く片棒を担ぐことになるのです。

全国の自治体職員の皆さんには厳しいことを書きましたが,実際には相当勇気のいることで,それができれば苦労はしないという声が聞こえてきそうです。
そこで,この記事をお読みの一般市民の皆さんにお願いです。
私たち自治体職員が役所の外側で職場や立場の垣根を越えて語り合える場を,ぜひ一緒に作ってください。
もしそんな場があるのなら,私たちにもお声がけいただき,呼び込んでください。
単なる要望陳情を伝達する場ではなく,公務員だからといたずらな批判を浴びせることもなく,政治にかかわる発言も許容する心理的に安全な場で,私たちの職場で起こっていることをお尋ねいただき,ありのまま受け止めてください。
私たち一人ひとりがつくる人の輪は小さくても,私たち一人ひとりが役所の外側とつながり,その場で交わされる「対話」が醸し出す市民からの信頼と期待があれば,私たちは「中の人」として内側から自治体を変えていくことができます。
選挙で首長を替えるだけが自治体改革ではありません。
皆さんが自治体職員一人ひとりに力を与え,命を吹き込んでいただくことで,共有できる事実,改革できる課題があり,その解決に向かう推進力が与えられることもたくさんあるのです。
そのためにも立場の違いを超えて混ざり合い,忌憚なく本音で語る「対話」の価値を共有し,そのような場が世の中にあること,その場に自治体職員が身を置くことの意義を,私はこれからも説いていきたいと思います。

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★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
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★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
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