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依存と自律

えー、おかわりもうないの
食べたいだけ食べていいって言ったじゃん
昨日よりもおなかすいてるんだけどどうしてないの?
#ジブリで学ぶ自治体財政

自治体財政のことを語るうえで、財政の実務経験のない方にどうも通じにくい概念があります。それは「財源」です。
「財源」というのは、何らかの支出をする際のお金の出どころ、元手のこと。
自治体ではそれぞれの支出ごとに、その支出がどの収入を財源とするのかが決まっています。
財政健全化を語るうえで、無駄な予算(支出)を見直して必要な経費に充てる、ということがよく言われますが、支出側の見直しを行ううえでは、この「財源」というものを正しく理解しておく必要があります。

まずは「自主財源」と「依存財源」の話。
「自主財源」とは、地方自治体が自主的に得ることができる財源です。
都道府県税・市町村税など自治体が賦課徴収する税金、公共施設の使用料や許認可手続きの手数料、自治体の保有資産の売却や貸付などによる財産収入などがあります。
「依存財源」とは、国などの意思決定に基づき交付を受けて得られる財源で、国からの補助金や負担金など、国が定めるルールに従って交付される国庫支出金、国が国税として集めたものを国が定めるルールで配分する地方譲与税や地方交付税、原則的に禁止されている自治体の借金を国が定めるルールに従って認めた場合に発行する地方債などがあります。
自主財源は、文字通り自ら自治体が自らの意思で賦課を決定し徴収するもので、自治体運営の基礎となるものですが、多くの自治体は半分以上の財源を国などから交付される補助金や地方交付税に依存しています。
その交付対象や金額はそれぞれのメニューで異なりますが、国の目指す政策の方向性や国の財政状況などに基づく国の判断によって決定され、地方自治体はその決定に従うしかありません。

財源の区分にはもう一つ、「特定財源」と「一般財源」という分け方があります。
「特定財源」はその名の通り、特定の目的のために使う財源です。
代表的なものは国庫補助金で、例えば自治体が道路や学校を作るときに国から補助金を受けて作ることがありますが、この補助金は、道路を作る目的、学校を作る目的で国から交付されますので、それを別の目的に使うことはできません。
道路の補助金が余ったから公園を作る、学校を作るというわけにはいかず、余れば返さなければいけません。
「一般財源」は、自治体が自由に使い道を定めることができるお金で、都道府県・市町村税や、国が徴税した税を地方に分配する地方交付税や地方譲与税がこれにあたります。
一般財源だから自由に使えるといっても、多くの自治体ではその一般財源についても地方交付税などの依存財源に頼らざるを得ず、地方自治体の収入のうちで、自由に使い道を決めることができる「一般財源」を、自分の力で稼いだ「自主財源」で賄えるのは税源の豊かな一部の自治体に限られています。

また、特定財源を充当する事業のほとんどは、その事業費の一部の財源については自治体にも負担を求めることが通例です。
事業費の50%について国の補助があったとしても、残りの50%は自治体が一般財源で負担し、その総額について、国の定める補助金交付のルールで使い道に縛りがかかりますので、一般財源であっても特定財源と併用する場合には使途が自由というわけではありません。
多くの自治体ではその収入の大半は国が定めたルールに基づき国から交付される財源に依存し、その使い道も国が定めたルールに制約されているのです。

依存財源、特定財源が多いことは、自治体の財政運営の自主性、自律性を阻害します。
半分以上はもらうお金ですから、お金が足りなければ無心すればいいと考えてしまいがちです。
また、使えるお金の大半はすでに使い道が決まっているので、なんとか工夫してやりくりするという意欲があまり湧かず、もらったらなるべく余らせずに使い切ろうと考えます。
また、本来は必要な支出に充てるための収入を、財源としてたくさんもらうこと、もらい続けることの方が目的化し、それを充てる支出の側が真に必要な施策事業であるかどうかの吟味検証が不十分になってしまうというリスクもあります。

もちろんこの財政制度は地方自治体を甘やかすためのものではありません。
自治体ごとに置かれた環境や経済の状況が異なり、自前の財源で賄える収入がまちまちであるのに対して、法令で定めた自治体の責務を全国共通の水準で果たさなければいけません
また、国が目指す国家の姿に近づけるために、国はその政策目的に応じて底上げが必要な地域に厚く財源を配分し、その実現を促進したいという考えが根底にあります。
そうした国の護送船団の庇護のおかげで、私たち国民は全国どこにいても均質なサービスを受けることができ、国土の均衡ある発展の恩恵を受けることができていますが、一方で、自治体が自らの財源で自律的に経営しようとするモチベーションを持ちにくいという課題を残しています。

しかし、依存財源だから、特定財源だから自由にならないといってもそれは常に自治体運営の外側にある所与の前提条件であって、国のせいにしてみたところで自治体の金庫にお金が湧いてくるわけではなく、あるいは今配られているお金だって国の都合でしかなく、極論すればいつ一方的に打ち切られるかわかりません。
自治体は常に、国に責任を転嫁することなく自治体の財政運営に責任を持ち、自己完結するしかないのです。
従って、本来、自前で稼げる財源の規模やその持続可能性を十分認識し、その身の丈に合った財政運営を行う基本の姿について十分な情報共有が必要です。
その前提を理解したうえで、自治体運営上必要不可欠な施策事業を実施するにあたり不足する額については国等の用意するメニューの中から充当できる財源を探し、過度の依存にならないよう留意しながらしたたかに活用していくしか道はありません。
すべての経費を自前で賄えるわけではないので、国等の財源に依存するしかないのですが、万が一その財源が与えられず、充当を予定していた事業を見直さざるを得ないという場合にも、その説明を国に求めることはできず、結局は自治体自らが市民に対する説明責任を果たすしかないのですから。

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