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表彰制度は何のため

5年目,5回目となった『地方公務員が本当にすごい!』と思う地方公務員アワード』が今年も開催されます。

現役の地方公務員の他薦によって「地味」「派手」を問わずに「本当にすごい!」という地方公務員を表彰するこの取り組みが開始された2017年の草創期に,私は審査員として関わりました。
主催は,地方自治体を応援するwebメディア“Heroes of Local Government”(通称「HOLG」「ホルグ」)。
地方自治体やそこで働く公務員個人に光を当て,その取り組みを情報発信して紹介するこのメディアは,我々公務員自身へのエンパワーメントと公務員という存在に対する市民理解浸透,関係改善を図る大変稀有な存在で,全く公務員経験も自治体との取引関係もない一民間人の加藤年紀さんが,このwebメディアに私のインタビュー記事を掲載したいとお願いに来られた時は,この人,ちょっとおかしいんじゃないかとさえ思ったものでした(笑)

あれから歳月が流れ,地方公務員個人が脚光を浴びる時代,その取り組みやそこに秘めた思いを個人として出版する公務員が続々と現れる時代になりました。
公務員に対する世間の見方も変わって来たように思いますし,少なくとも自主研究グループ,オフサイトミーティング,SNS等での公務員コミュニティの隆盛は目を見張るものがあり,その関係性の中で公務員同士が互いに刺激を受けて高めあい,励まし慰めあうことができるようになったことで救われた仲間たちもたくさんいることと思います。

アワードも5年間の間に急成長を遂げ,今では民間企業の協賛がつき,受賞者がメディアで取り上げられたり,このアワードを受賞したことを所属自治体で首長から表彰されたりと,アワードによる露出が増え,受賞者の中には著書を出版される方,その活動ぶりが外の世界から注目され,活躍の場を移す方も現れ始めています。
あまり既存のメディアで取り上げられることのなかった公務員の活躍奮闘ぶりが人々の目に触れ,注目されるようになったことは大変喜ばしいことで,草創期を知る者としては,“Heroes of Local Government”に光を当て,地方自治体を応援するムーブメントを創ろうとされた加藤さんの稀有な取り組みがこの5年間でこれだけの大きさに成長したことは本当にうれしいことです。

しかし,そんなアワードの在り方について疑問を呈する人もおられます。
耳目を集める派手な活動が脚光を浴びることで,そのような表舞台に立たず,地味ではあるが着実に与えられた責務を果たしている本来の公務員の在り方に光を当てるという当初の目的が果たせていないのではないかという,この表彰制度への疑問です。
アワードの立ち上げ以前にさかのぼり,ホルグの活動の黎明期から関わり続けている私にとってはこの疑問の声は耳の痛い話ですが,改めて,表彰制度とは何なのかという本質について,私の理解を述べたいと思います。

多くの自治体で,職員表彰制度というものがあると思います。
福岡市の場合,年に一度,各職場からの推薦を受けた職場や職員個人が選考の上市長や局長から表彰されるという仕組みがあり,施策の遂行や業務の改善に顕著な功績があった職場や職員が表彰されています。
実際に表彰を受けている取り組みの多くは,程度の差はあるものの「目立つもの」「成果がわかりやすいもの」であり,日々の地道なルーティン業務に精励しても表彰されることはありませんが,だからと言って「目立つものばかり表彰している」と批判を受けることはありません。

それは職員表彰制度の本質が「よその誰かがほめること」ではなく「職員同士がほめあうこと」だからです。
職員表彰で市長が私を表彰することは,市長自身が私をほめたたえているのではなく,ほめたたえてくれているのは福岡市職員の仲間たち。
あるいは福岡市民からほめたたえられていると考えることもできるでしょう。
共同体の構成員がみんなで仲間の誰かをほめたたえることで,賞賛を受けた側ではなく、賞賛を表明した者の意識として、自分がそれを成し遂げた当事者ではないが「自分たち」がそれを成し遂げたのだという共同体への誇りが高まり,帰属意識が強くなります。
高校野球で自分の出身地の高校を応援し,その高校が良い成績を収めた時に誇らしくなり,郷土愛が強くなるのと同じです。
職員表彰は,その受賞をモチベーションとして業務に精励し自らの承認欲求を満たすという個人的な目的のために行われるのではなく,あくまでも組織全体の意欲喚起や結束力の強化が目的であり,その目的が果たされる仕組みや表彰結果となっているかで制度の良し悪しが評価されるべきものだと私は思っています。

とはいえ,私たちの仕事には成果が目立つ業務,わかりやすい業務とそうでない業務があり,目立つこと,わかりやすいことばかり評価されるのでは,組織全体のモチベーションが上がりません。
そこで大事なのは,普段からほめあう気持ちを持って互いの業務内容やその進捗状況,おかれている環境を相互に理解すること。
表彰制度があってもなくても,互いに「すごいな」「がんばってるな」と思い,時にはその言葉を発し,励ましあう関係でいられる状態に職員を置くことが,職員表彰制度の究極の目的だと私は思っています。

私はかつての職場で部長として,毎年末に実施される職員表彰制度で各課から複数の表彰案件を推薦するよう課長に指示しました。
表彰推薦の受付開始と締め切りが示される時期ではなく,年度当初,これから各課の業務が始まるという時期に。
課長たちは年末に複数の案件推薦を行うために各担当の日頃の業務を「ほめる」視点で見るようになり,係間,担当者間でも「ほめあう」ように職場の雰囲気づくりを行ってくれました。
そして年末,課長たちから挙げられた推薦案件のうち,市長,局長表彰の選に漏れたものを対象に,部の忘年会の催しとしてポケットマネーで部長からの表彰を行い,その選に漏れたものも含めて部下職員に一年間の業務精励を労ったのです。

『地方公務員が本当にすごい!』と思う地方公務員アワード』も同じです。
これは私たち地方公務員全体を一つの共同体と見立てた職員表彰制度。
その目的は「みんなでほめあう」ことです。
表彰を受けた人がえらいのではなく,その取り組みだけが素晴らしいのではなく,そんなすごい取り組みを成し遂げた我々地方公務員,地方自治体の底力ってすごいよね!ということを互いに知り,自分もその仲間であることを誇らしく思い,自分たちの日々の業務へのエネルギーとしていく。
そのためにこのアワードは現役公務員からの他薦による推薦に基づき,現役公務員が審査員となって選考する仕組みになっているのです。
欲を言えば,アワードの推薦受付の開始時期になってから「誰を推薦しようか」と周りを見渡すのではなく,常日頃から同じ職場,同じ自治体の仲間や全国で活躍する自治体職員の仕事ぶりや仕事に向き合う姿勢,生き様について関心を持ち,「すごいね!」と評価しながら自分の閻魔帳にメモっていくような公務員同士のほめあう連帯意識を,このアワードを一つのきっかけとして育てていけたらと,草創期メンバーとして思う次第です。

今年の締め切りは7月7日(水)。
今年は私も推薦したい人がいるので,そろそろ推薦文を書こうと思い,改めてこのアワードの意義について考えてみました。
皆さんは普段,周りの公務員仲間のこと,リスペクトできてますか?
ディスってばかりで帰属意識が希薄になってませんか?
それが原因で,自分の仕事や組織のこと,イヤになってませんか?

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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