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そして誰もいなくなった

もう誰も住んでいないんだね
どうして誰も住まなくなったんだろう
ここに住み続けるために向き合うべき困難に
なぜみんなで立ち向かわなかったんだろう
#ジブリで学ぶ自治体財政

総選挙を前に数多の政策を公約と掲げながらその財源の国民負担について言及しない各政党も、社会保障費増大に対応する安定財源確保が至上命題でありながら増税を言い出せない霞が関も、そのことを切り出すための国民との対話が十分にできているという自信がないのかもしれない。
昨日の投稿でそう書きました。

課題があることがわかっていながらその解決のために国民、市民に負担を求める議論すら切り出すことができないということは、問題解決のための選択肢を極端に狭め、その問題を先送りすることでいよいよ事態を深刻化させているのではないか。
国や地方自治体が財政的な課題を借金によって先送りするたびに、わたしはそのことを強く危惧します。

数年前に「自治体消滅」という言葉が大きく報じられたことがあります。
その契機となった、2014年に民間シンクタンク「日本創生会議」が公表したレポートは2040年までに全国で1800ある市区町村のうち896が消滅する可能性があるというショッキングな内容で、全国の自治体関係者に衝撃を与えました。
このレポートを受け、全国の自治体では若者の移住・定住によって人口減少を食い止め、あるいは関係人口の維持拡大によって得られる経済交流により税収減に歯止めをかけようという取り組みが進められ、国も「地方創生」という政策の推進によりその取り組みを後押ししました。
あれから7年経ちましたが、自治体消滅の危機に対して国や自治体はどう対処したのでしょうか。

自治体消滅論の根拠は、出生率の低下による人口の急減ですが、そもそも地方自治体の財政状況の厳しさは今に始まったことではありません。
人口減少は我が国の合計特殊出生率が2.0を割り込んだ1974年以降、毎年新生児が減少していく段階において「既に起こっていたこと」で、子供を産むことができる女性の数が減り今後も人口が減り続けることはもう40年以上前からわかっていたことです。
少子高齢化により生産力も消費力も落ち、そのことによる経済活動停滞がもたらす財政的な制約の中で「あれかこれか」を選択せざるを得ない未来がやってくることはわかっていたはずなのです。

自治体の消滅とは、住民がそこに住むことを選択できなくなる状態。
それはある日突然にやってくるわけではありません。
しかし、人口減少という「既に起こった未来」から目を背けて問題を放置したり、この困難な状況を打開するために必要な決断に至る議論のプロセスを十分に踏むことができずに結論が出せなかったりした場合には、事態が深刻化し、やがて手の打ちようがなくなります。
じわじわと迫る人口減少の危機の中でなお、深刻な事態を直視できない、あるいは苦渋の結論を導き出せないのは、限られた財源の中での政策選択にせよ、市民負担を伴う増税にせよ、その実現には納税者であり行政サービスを享受する客体としての市民の理解なくしては実現できないにも関わらず、そのことについて市民の十分な理解を得るためのコミュニケーションができていないからではないでしょうか。

人口が減るから住めなくなるのではなく、人口が減ることにより生じる様々な課題に対して、行政と住民、あるいは住民同士が向き合うことができず、住民自身の未来が見通せなくなることが自治体消滅に向かう本当の原因。
緩やかに、しかし確実に衰退の一途をたどるその過程で、その課題を解決する処方箋を見いだせないのは、課題の本質やその課題を乗り越えてたどり着きたいありたい姿について、行政と住民、あるいは住民同士が共有し、その未来を目指すために困難な選択をしようという共同の意志を固めることができないから。
住民たちはその町や村の行く末に漠然と不安を感じるだけで何の手立ても講じることができず、やがてその不安がより明らかなるにつれ、住民たちはそこに暮らす自分たちの未来を感じることができなくなり、住み続けることを選べなくなってしまう。
その時が、私たちの町や村が、あるいは国ですら消滅するときなのだと思います。

コロナ禍という未曽有の災厄を経験し、将来に向かって危機意識を共有できる今こそ、目先の経済対策や福祉の充実だけでなく、その財源確保のための痛みを伴う改革まで含めた中長期的な自治体経営、国家経営のための対話と議論が行われ、その中で困難を乗り越えて未来に向かう意志が市民同士で共有されることが必要です。
そのためには、国や自治体と市民、議会、あるいは市民同士で十分に情報共有と意思疎通を図ることができる「対話」の場づくり、苦渋の選択を乗り越えることができる意思疎通の環境整備こそが、最も求められている。
課題を先送りせず真摯に向き合うことができる持続可能な自治体経営、国家経営のための標準装備として、相互理解によって対立を乗り越え、当事者として納得ある合意に至るための「対話」の価値がもっと認識されなければいけない。
私はそう強く思っています。

★2021年6月『「対話」で変える公務員の仕事~自治体職員の「対話力」が未来を拓く』という本を書きました。
https://www.koshokuken.co.jp/publication/practical/20210330-567/
★2018年12月『自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?』という本を書きました。
https://shop.gyosei.jp/products/detail/9885
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