哀しきオオカミ少年
お金がないって言ってたけど、結局予算は組めるんだね
財政課の言ってる「お金がない」ってホントなのかね
どっかに隠し財産でもあるんじゃないの(笑)
#ジブリで学ぶ自治体財政
全国の地方自治体で令和3年度当初予算が議会に上程され、審議が始まりました。厳しい財政状況の続くなか、コロナ禍による税収減や臨時的な支出対応などもあって、例年にない、さぞアクロバティックな予算編成になったことと推察します。全国の自治体財政担当の皆さん、本当にお疲れさまでした。
私も過去に長く財政課に在籍しましたが、苦労して予算を組んで議会に予算案を送り込んだ後でどこからともなく聞こえる心無い声に胸を痛めていました。
お金がないのに予算が組めるのは財政課がオオカミ少年だからという誤解です。
私も財政課に在籍しながら毎年不思議でなりませんでした。
予算編成前に次年度の収入支出の見込みを立てる段階では途方もない金額の収入不足が見込まれているのに、なぜ長い秋冬の予算編成作業を経て予算案を固めるときには収入と支出がぴったり同額になっているのか。
なぜ予算が組めたのか。どこからかお金がわいてでてきたのでしょうか。
実はこれ、魔法でもまやかしでもありません。
自治体の予算は通常収入と支出が同額でなければならず、収入の範囲内でしか支出予算を組むことはできません。
そのために支出を収入の範囲に収まるようギリギリまで削り、一方で収入見込みを極限まで精査するだけでなく、執行の前倒しや先送りによって当初予算での収支から外したり、基金や市債、国や県からの補助金等を充てられる施策事業を探して可能な限り充当したり、ありとあらゆる手を使って収支の帳尻を合わせた結果、なんとか組めた予算案を議会に上程しているだけで、結果がそうなっているだけ。
そこには何かいつも使える万能の奥の手があるわけではありません。
毎年、予算が組めるのは、毎年度の財政課職員による血のにじむような努力の結果なのです。
それなのに、オオカミ少年扱いされるばかりでなく、その帳尻合わせがどれほど厳しいものかが現場や首長に伝わらず、あたかも財政課が魔法の杖でも持っているかのような期待感、安心感を与えてしまい、財政課が抱いている危機的な状況について十分に理解が広がらないという結果を招いてしまいます。
お金がないと言っているのに毎年予算が組めるのなら、財政健全化に取り組む必要などないのではないか。
毎年度の予算で少しくらいワガママを言っても、最後は財政課が帳尻を合わせてくれるのではないか。
財政課が毎年の帳尻あわせを頑張れば頑張るほど、お金がないと危機感をあおれば煽るほどそんなゆるみさえ生じてしまう、哀しいジレンマを抱えているのです。
拙著「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」でも書きましたし、これまでこの場でも何度もお話ししてきましたが、自治体の財政状況は楽観視できるものではありません。
会計年度独立の原則によりその年度に必要な支出の財源は原則としてその年度の収入で賄わなければならないこと。
限られた収入の範囲で新しく何か施策事業を拡充したければ、今ある何かを見直さなければならないこと。
そして、国と違って自治体は、お金が足りないからと言って赤字を埋めるために借金をすることができないことも、みんな財政課にとっては当たり前のルールです。
自治体財政の最大のリスクは、「お金が足りない」といって一時的に(厳密にいうと、年度をまたいでは)借金をすることができないことです。
収入が見込みより少なければ、その分支出を減らすしかありません。
そしてその収入の根幹である税収は市民の経済活動の結果でしかなく、企業の売り上げのように自治体自らの努力によって最大化できるものではありません。
一方、自治体は業務領域の多くが任意に撤退することが許されない、法令等に定められた事務事業ですから、収入、支出のそれぞれを自治体の裁量で大きく増減させることは難しいのです。
また自治体は、経営が悪化しても企業のように銀行や株主が資本注入や融資によって経営再建に乗り出すこともありません。
意外に知られていませんが、自治体の経営悪化について国は直接的な財政出動による支援を行うことはなく、あくまでも特例的に赤字を補填する借金を認め、その返済が確実に行われるようその自治体を国の厳格な管理下に置くだけです。
収入支出の裁量によるコントロールが難しいうえ、収支不足を補うつなぎ融資や増資の手段もなく、国からの直接支援もないなかで、自治体の収支均衡が果たされないことのリスクは非常に高いのです。
しかし、財政課以外の職場の職員はこのことをよく理解していません。
ひょっとしたら首長をはじめとする幹部職員もよく認識できていないかもしれません。まして市民が理解できていないのは言わずもがな。
財政課だけでこの課題を抱えていてはオオカミ少年から脱却できないばかりか、財政出動の声が大きくなり、財政健全化への道のりは遠ざかってしまいます。
来年、収入が激減したら、臨時的な支出が増えたらどうしますか。
国からの交付金や、過去の剰余金の積み立てがなかったら足りない財源をどう補いますか。
今年はなんとか帳尻を合わせることができたかもしれませんが、来年も同じようにうまくいくのでしょうか。5年後、10年後はどうでしょうか。
今年予算が組めたのは、たまたま削減できる事業があっただけ。
たまたま税収がそんなに落ち込まなかっただけ。たまたま充当できる財源があっただけ。
たまたまのことを見込まずに毎年確実に入ってくる収入の範囲で支出予算を組むという当たり前のことがどれだけ愚直にできているか、財政課の皆さん、胸に手を当ててみてください。
そして、いまこそ声を大にして叫びましょう。
今年予算が組めたからと言って、来年も予算が組めるとは限らないと。
またオオカミ少年がほらを吹いていると言われないように、わかりやすいデータも準備して、まずは首長に、そして財政課以外の職場に。
財政が破たんし、市民サービスを否応なく切り捨てる局面になってからでは遅いのです。
★2018年12月に「自治体の“台所”事情“財政が厳しい”ってどういうこと?」という本を出版しました。ご興味のある方はどうぞ。
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