見出し画像

「短歌人」2022年11月号掲載作品

「夏、架空の」

美しい夕焼けだけを数へつつ海辺の町に夏を過ごしぬ

黄昏の匂ひをまとふ手紙には虹のやうなる誤字ひとつあり

ゆふやみが文庫の文字を浸すころ深紫の栞をはさむ

潮騒を聴いて眠らな潮騒はたれのためでもない子守唄

貝殻を拾つてあげる信用のできない愛や恋のかはりに

ここまでを会ひに来る人などゐない その安らぎと孤独と雨と

雨の日は誰にともなく書きたくて帽子かむれる少女の絵葉書はがき

※同人2欄 冨樫由美子

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?