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15のちいさな物語~ツイノベまとめました~

「ツイノベ」とは1ツイートに収まる短いノベル(小説、物語)のことを指します。1ツイートの中にハッシュタグ #ツイノベ  などをいれるともっと短くなりますが、わたしはタグやお題(あとで説明します)はツリーでつなげて、物語が140字ぴったりになるようにしています。

わたしがはじめてツイノベを書いたのはこの夏(2021年7月)。小説家の川内祐さんが17(イチナナ)というライブ配信アプリの中で、リスナーさんから原則2つのお題をつのり、即興(3、4分から5、6分程度)でひとつのツイノベをしあげるという場に居合わせて、一緒になって書いてみたのがきっかけでした。

というわけで、ここにまとめた物語は、ほとんどが #17ライブお題ツイノベ というかたちで即興で創作したものです。題の記載がない最後の二篇は、興が乗って勝手に書きました。

それでは、前置きが長くなりましたが、15のちいさな物語をお楽しみいただけたら幸いです。

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ヘンテコなものをあつめるのが好きなおじさんがいました。ワニの虫歯。蜘蛛の巣にかかった朝露の化石。朝焼けの空に残っていた月光のかけら。カフェアートの葉っぱ。でもそれらを保管しているトランクの鍵の番号が実はいちばんヘンテコです。もう名前も顔も思い出せない初恋の女の子の誕生日なのです。
午後3:26 · 2021年7月10日
題:「ヘンテコな」「おじさん」
(カフェアート→ラテアート)

生まれてきた王子は耳がきこえなかった。かつて音楽が好きだった王は国内で音楽を奏でることを禁止した。ひとびとは毛糸で編みものを始めた。黙々と編む、編む、編む。野に、街に、城の周りに、あふれるさまざまな色のあたたかな作品たち。六歳になった王子はそれらを指さして、はじめて歌をうたった。
午前9:43 · 2021年7月11日
題:「音楽」「編みもの」

ウェルビーイングな天使と、ウェルビーイングでない天使が天国の庭で遊んでいます。ウェルビーイングな天使はピンクのシャボン玉を、そうでない天使はブルーのシャボン玉をとばします。ふわふわ、ふわふわ。それらが混ざりあって、地上で見上げている人間たちを程よくウェルビーイングにするのでした。
午前10:50 · 2021年7月11日
題:「天使」「ウェルビーイング」

すこし疲れた日、あたしは真っ赤なワンピースを着る。そして、いつもの喫茶店でナポリタンを食べる。トマトソースがはねても、ハイビスカスのようにあざやかな赤が吸いとっていく。あたしの気持ちを、あんたの心が吸いとっていくのと同じように。あたしの心はアルデンテだ。芯に固い疲れを残している。
午後5:43 · 2021年7月11日
題:「ハイビスカス」「アルデンテ」

猫をかぶるのが習慣になってしまった。猫と私が一体化してしまった。頭蓋骨から爪先の骨まで、すっぽりと覆うこの猫を脱ぐ方法を探る旅にでた。コーヒー農園のあるじが言う。「簡単さ。耳からコーヒーを注ぐんだ」。試してみると、ゆっくりと、はがれ落ちた。私が、わたしから。わたしとは誰でしたか?
午後3:43 · 2021年7月12日
題:「コーヒー」「頭蓋骨」

家に帰ったら、ママがフライをあげていた。エビをあげる。チキンをあげる。野菜をあげる。「女の子なんだから、あなたも早くお料理をおぼえなさいな」わたしに背中を向けたまま、とても優しい声でママは言う。ママはわたしの夢をおいしいフライにあげてしまう。わたしはそれを噛みしめて、呑み込んだ。
午前10:09 · 2021年7月13日
題:「家」「女」「あげる」

私は急ぎ足で歩いていた。友人がある村で重い病になったと聞いたのだ。村に近づくにつれ猫の姿が目立ちはじめる。彼の家の庭にはたくさんの猫。ベッドに横たわる彼の身体の上にも、猫が何匹もいる。「妻を紹介するよ」彼は言ったが、他に人はいない。おそらく彼は、またたびの精に魅入られたのだろう。
午後4:22 · 2021年7月13日
題:「急ぎ足」「またたび」

女心はわからない。そんなありふれた台詞を自分が言うことになるとは思わなかった。今まで女を振り回すことはあっても振り回されることはなかったのに。サングラスをはずして眩しい夏空を仰ぐ。浜辺の波打ちぎわでは3人の女が遊ぶ。妻と幼い娘達。彼女らの心がさっぱりわからない。そのことが嬉しい。
午前9:49 · 2021年7月14日
題:「女心」「夏空」

テレビを見ているおじいちゃんの背中は小さくて丸い。画面に映っているのは砂漠。おじいちゃんは呟いた。「あれはどこにやったかの」立ち上がって押し入れの中をゴソゴソすると、古いリュックサックを出した。その中から瓶を取り出す。ぎっしり砂が詰まっている。「ばあさんと出会ったサハラの砂じゃ」
午後8:55 · 2021年7月15日
題:「リュックサック」「テレビ」

雨あがりの公園でつかまえた虹のかけらを、ハンカチに包んで持って帰った。冷蔵庫に保存しておく。晴れた夜の裾を切り取って、ポケットに入れて持ち帰った。壺の中で熟成させる。たましいの古傷がうずくときには、虹と夜とを鍋でよく煎じて薬にするのが、いちばんよく効くと曽祖母から教わったからだ。
午後9:21 · 2021年7月15日
題:「夜」「虹」


政府から支給されたのは水を浴びるのが怖くなくなるシャワーヘッド、またたびの香のボディーソープ、全身をもみほぐすマッサージ器。われわれ猫族がこの星を支配するようになって百年以上経つが、前の支配者であるニンゲンたちに馬鹿にされないよう、彼らの習慣・入浴を身につけるのはなかなか困難だ。
午前0:56 · 2021年7月16日
題:「猫」「浴びる」

「ぼくの家に遊びにおいでよ」森で出会った熊に言われて訪ねていくと、そこはきれいに掃除されたほら穴だった。たっぷりの蜂蜜入り紅茶と蜂蜜パンでもてなされる。おなかがいっぱいになって眠りこんでしまった私は気がつくと熊のおなかの中にいた。熊は空腹だったのだろう。ここはずいぶん広い空間だ。
午後7:42 · 2021年7月17日
題:「熊」「空」

川遊びに行った幼い日、流されそうになったわたしを父がつかまえてくれた。日に焼けた、がっしりした腕で。今夜、夏祭りで、わたしの腕をつかんでいるのは幼いわが子。「去年はおじいちゃんも一緒に来たのにね」「お盆祭りが終わったら、川に行こう。川の光の中におじいちゃんの笑顔が見えるはずだよ」
午前11:01 · 2021年8月7日
題:「夏祭り」「川」

今日も暑くなる予報だが、早朝の空気は冷たく肺をみたす。その中に、濃厚な香りが混ざった。振り向くと、白い百合の姿があった。妻が活けたものだろう。もう何年も、同じ屋根の下に住みながら言葉を交わしていない妻。彼女の心の裂け目と叫びが、花のかたちをとってそこに咲いている。私は目を伏せた。
午前6:42 · 2021年7月26日

平たくて丸い紅茶の空き缶に、お医者さまのくださったお薬を保管することにした。包装シートを一錠ごとに切り離す。鋏を持つ手の白さは見ないふりをする。枕元に吸い飲みと一緒に置いておいて、ときどき耳の近くで振ってみる。カサコソカサコソ……。遠い秋の日、あなたと踏みしめた枯葉の音がひびく。
午前3:54 · 2021年7月28日

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