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『声と話し方のトレーニング』 平凡社新書454

自著を振り返る

2009年に最初の著書が出て以来、細々とではあるがその本の内容を読んだ方からの反響で研修や講演、そして次の本への出版のお誘いを受けてきた。

ところが今年は新型コロナウイルスの影響もあってか講演や原稿の依頼が急減してしまった。幸い貯金があるし、レギュラーの仕事は継続している。各種支援制度も利用できたので、今年から来年については乗り切れる見通しがついてきた。

そうは言っても新型コロナがいつ落ち着くかわからないし、今まで頼ってきた主催者や参加者の口コミ情報が使えないのは心もとない。実は途切れなく仕事が来たのも本を出す→あちこちで紹介される→講演や研修を依頼される→紹介される→「そんな方がいるなら、仕事を依頼したい」→(以下同文)という口コミの連鎖があったからだ。

そこで、対面での口コミが難しいならオンラインでの口コミを期待して自著の紹介を書いていこうと思い立った。手始めにオンラインセミナーなどで需要が高まっている状況を鑑み、最初の著書である『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書)を紹介する。

声のセミナーから生まれた本

この本ができたのは、コーチングで知り合った人に声の悩みを相談され、こちらが何気なく答えたやり取りを横で聞いていたこれまたコーチングで知り合った友人原口佳典氏に「絶対ニーズがあるから声のセミナーをやろう!」と誘われたのがきっかけだ。

当時は「そんなにニーズってあるの?」と半信半疑だったが、いざ開催すると回を重ねるほどの講座となり、今では巷には声に関する講座や声のトレーニング教室が乱立している状況だ。企画のアイデアを思いついた原口さんの先見の明に驚くばかりである。

その後セミナーの概要をまとめた本を出すことになり、何を書いたらいいか取捨選択に悩みながら原稿を書いた。

この本の独自のポイントと言えば、医学とリハビリの基礎知識に基づいた内容の一般向けの本だということだろう。それまでに出ていた本は医学的な専門書もしくはアナウンサーやボイストレーナーが書いた自分の経験に基づいた実用書が多く、理論的な背景に基づいた分かりやすい本が欲しいというニッチな需要があった。

そこで医療関係の国家資格で、声や話し方のリハビリ訓練が仕事という言語聴覚士であるため、私に白羽の矢が立ったのだった。

この本が出た後音訳ボランティア(主に視覚障害者向けに広報や書籍を読み上げて音声データを作るボランティアのこと)の養成をしている団体から全国大会の研修講師を依頼され、それがきっかけで全国各地の音訳ボランティアの講座で発声発語の基礎を教えることになった。

「朗読テクニックやアナウンスとは異なる発声発語や発音の基本を知りたかったので、まさにこちらが求めている内容でした!」ということばに言語聴覚士の知識とスキルには潜在的な可能性を秘めている、と確信した。

だとしたら自分の役割は言語聴覚士ってこんな事ができますよ!という一般の人と言語聴覚士との橋渡しのようなことなのかもしれない、と今後の指針をもらった気がしている。

発声発語の入門書として

この本について声版Tarzanというレビューを見かけたことがあるが、まさに言い得て妙だと思った。

ざっくりとした説明だが、声がうまく出せない理由を分析しつつ、どんな声を目指すのかを理論で解説し、実践的なトレーニングを掲載している。この手の本によくありがちな精神論は抜きにした理詰めなことしか書いていないから、中には面食らう人がいるかもしれない。

個人的には声に関心がある人はもちろんだが、言語聴覚士の学生さんや言語学を学び始めた人、医療や介護の関係者にも読んでもらえたら、と思っている。

そして、この本を足がかりに専門書を読んでもらい、発声発語の奥が深い世界に触れてほしいと願っている。



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