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天使のほほえみ


子どものころ
母といっしょにお風呂にはいるとき

母がいつも付けていたネックレスが
妙に印象的だった。


直径1、5センチほどの丸い形をした
ゴールドのネックレス。


翼をつけた天使が
窓から外を眺めているような
ほほづえをしているデザイン。

子どもながらに


「おとなになったら
きれいなネックレスつけれるんだぁ・・」

とぼんやりとした記憶が残っていた。



そして月日が経つにつれて
いつの間にかそのネックレスを
見かけることはなかった。




あれから30年近く経った今年の秋。

実家に帰省した際に

そのネックレスの話になった。


「お母さんが昔つけてたネックレスなんだけど、、」

「あの天使のやつ?」

「そうそう、覚えてる?」


「覚えてるー!あれ、可愛いよねー」


突然振られた話題に

ぼんやりとした子どもの頃の
かすかな記憶を懸命にたどった。


「あれ、実はお父さんからもらったやつでね。」



?!

わたしは衝撃的だった。

父はその昔、母の誕生日に
造花の花を買って帰ってくるような、

女子にとってはちょっと残念な人。


もちろん当時

造花の花を受け取った母は激怒し
その花を床に投げつけていた。。。笑


子どものわたしでも、
お父さん、それはないよ。。と
心の中で思いながら


「造花でも、おとうさん何かプレゼントしたいと思って
買ってきたんだから…」

すこし落ち着きなさいよ、と
カッカしている母をなだめたこともある。



兎にも角にも

父にはプレゼントというものが苦手で
ネックレスを贈るタイプではなかったのだ。



そんな父から母へと贈られた
ネックレス。


どのようにして
手元にやってきたのか、

長い時を経た今

そのエピソードを教えてくれた。




2本のネックレス



時は父と母が出逢う前までさかのぼる。

50年近く前だろうか。


父が職場の旅行で
海外を訪れたときのこと。


何を思ったのか、

そこでまだ見ぬ
将来自分の妻となる人と

自分の母親に、同じものを
持っていてもらいたい、


そんな風に思い

同じネックレスを2本
その場で購入したそうだ。


なんともロマンのある話…。



母は、父のことだから、当時購入した場所も
その辺の露店のようなところで買った
安物なのでは、と思ったようだが

聞く話によると


当時現地で一緒に行動していた
ガイドさんに聞いた
おすすめのショップで
購入したそうだ。


18金、とまではいかないが、
それ相当の品物だった。


当時の価格にしても
高価な買い物だったのは想像できる。



そうして時を経て

妻となった、わたしの母と、
父の母、わたしの祖母は

それぞれ同じネックレスを持っていた。



受け継がれるもの


随分月日が流れ


祖母が亡くなるすこし前に

母が意を決して

「おばあさんのこのネックレス、もらってもいい?」と
尋ね、譲ってもらったそうだ。


経年変化で黒ずんではいたものの、

メンテナンスに出したら新品同様になって
戻ってきたそうだ。


祖母が亡くなってもう時期10年になる。


そんなエピソードを初めて聞かされた。


「お母さんは、おばあさんからもらった
ネックレスを付けるから、ゆみにはお母さんが
持っていたこのネックレスをあげるね。」



とメンテナンスされた
ピカピカの天使のネックレスが

つい先日、わたしの元にやってきた。


わたしが母から貰ったネックレスは
わたしが無くさない限り(とても不安。笑)

むすめへと渡る。


そしていずれ祖母のネックレスが
わたしの元へやってくる。


我が家にもそんな家宝のような
代々受け継がれていく品物ができたことに


とても胸がいっぱいになった。


父のロマンに感謝だ。





物にも、出来事にも
隠れたエピソードがあると

より愛おしく、
心が豊かになる。


きっとこの書く、ということを
していなければ、ここまでじっくりと
感情を味わうこともなかったかもしれない。


そんなことを感じた朝。



わたしの胸元できらりと
天使がほほえんでいる。


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