「ババァって言うな」

帰るなり、見上げた息子が私の顔を見て言った。
「何、その顔。ババァじゃん。」
確かに自転車を漕いできて、髪はボサボサだったし、スーパーのレジはマスクをしているから、顔半分隠れているようなものなので、眉毛くらいしか描いていなかった。
だからといって、46歳、息子にババァ呼ばわりされる覚えはなかった。
「あんた、何やってんの?宿題やったの?」
と顔を洗いながら言うと、背後でうるせぇなぁという言葉と声がして、バタン!と扉の閉まる音がした。
ババァ…。そうだろうか。まだいけると鏡を見ると、そこには仕事に疲れ切った年相応のおばさんが映っていた。
ババァ…。以外の何者でもない。
私は緑のタオルをつかんでゴシゴシと顔を拭いた。
それこそ顔が変わるくらいに。
いつまでもいつまでも、拭き続けた。

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