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夢歌7 またおまえかよ!

「これ、なんだと思います?」

私は白い戸棚の扉をあけて、中に陳列されている箱をあごでさした。

廊下から部屋のドアをあけると、正面に床から天井まであるその収納庫がある。中には白く塗られたブリキのふた付きの箱がぎっしりと詰まっている。

「触らない方がいい気もするけど、気になりますねえ。」

私は試しに目線の高さにある箱を引きずって引っ張った。意外に重い。

「どこにあるんすかね、アレ。」

キタザトさんをはじめとする我ら捜査係は、白い部屋でブツを探している。

「ユミちゃん、開けちゃったら?」

カズちゃんが言う。

私は棚に戻しかけたブリキの箱を再び引っ張り出した。結構ずっしりとしている。A4サイズ、高さ25cmほどの箱の中で、水風船のようなたぽんとした音が鳴った。

底の4スミから赤い液体が滲み出ている。私は手についた液体を箱の側面になすりつけて拭いた。

「カズちゃん、見てよこれ。隙間から漏れてるんだけど。嫌な予感しかしないよ。」

「とりあえず開けてみますか」

キタザトさんがのんびりとした落ち着いた口調で言う。

私は二人に向けてゆっくりふたをあけた。

「うへぇー。」

三人で声を上げる。

「なんだこれ?」

「風船?」

部屋のスチール製のロッカーを探っていたホシノさんとキムラさんたちもやってきた。

「うーん、風船みたいだけどその中がね。」

空気が抜けたゆるゆるの風船、というかクリーム色のゴム袋の中に赤黒い物体がある。

「あ、もうそれウチらノーセンキュー。」

「夢に出てきそう」

キムラさんの後ろにいたミキちゃんがはらうように手をふった。

アッコちゃんも眉をひそめて更に一歩下がった。

「これは?」

ひとり歩き回っていたヨコヤさんが中央の大型冷蔵庫を叩いた。

よくスーパーの精肉鮮魚コーナーにある、島になってるアレだ。

「ソレ、見なきゃダメ?」

げんなりして私が言うと、

「だってほら、証拠を見つけないと。」

「さっさと見つけて撤収しましょ。」

職務に忠実なホシノさんと、早く終わらせて一杯飲みたいヨコヤさんが冷蔵庫をノックする。

私はブリキの箱にふたをし、ステンレスのワゴンに乗せた。これも証拠品だ。

大きく息を吸いこんで、止めてから冷蔵庫を覗く。

よく冷えているのか、内側には霜がついている。

「こっちは冷凍っぽいな。」

「においはないですね。」

キムラさんとホシノさんが中の物を観察している。

霜がついて曇っているのでわかりにくいが、ゴム袋の中身はそら豆の形をしている。

キタザトさんが打ち明けるように声をひそめた。

「これは、アレですな。」

私も答える。

「アレ、ですね。証拠になりますかね。」

「なるでしょうなァ。」

「ハイ、撤収、撤収ー。」

ヨコヤさんの手拍子に急かされ、ホシノさんがひいてきてくれたステンレスワゴンを見る。

部屋の扉の対角にもスチールの扉があり、そちらの方は明るい。非常口だろうか。突き当たりの壁には型板ガラスの窓があって、そちら側からも明るい日がさしている。

ああ、早く外に出たい…。

もはや無の境地で、私は冷蔵庫もとい冷凍庫の赤黒い物体に手を添えた。

そのときだった。

大きな音を立てて、廊下側のドアが開いた。

身長160cm少し。小太りの若い男が走り込んできた。前髪が目にかぶっていて顔はよくわからない。手には鉛筆を削る程度の小さな折りたたみナイフを持っている。またおまえかよ!

気づいた一同は、わあと二、三歩後ろに下がり広がった。

「おっと危ない危ない。」

と、ヨコヤさん。

男は我々の輪の中にいる格好になっている。

「なんだコイツ?」

キムラさんが警戒しながら言った。

「ユミちゃん知り合い?」

ホシノさんも困惑している。

「すみません。知り合いとかじゃないんですけど、色んなところで飛び出してくるんですよ。」

姿形は変わってもナイフを振り回すキャラは健在だ。しかし私も振り回したことがあるのでおあいこか。つい仲間たちに謝ると、男は本当にナイフをめちゃくちゃに振り回し始めた。

「いやいやいや、危ないって。」

「やー、ムリムリムリムリ。」

みんなに申し訳なくて、私はナイフ男を止めに入る。

もみ合いになった。

「えー、ちょっとそれユミちゃんが危ないよ…」

カズちゃんがつぶやく。

男性陣が助けを出そうとしてくれるが、ナイフが向かってくるので危なくて近づけない。

私はナイフをかわしながら、なんとか男の足を引っ掛けて払おうとする。うまくいかない。ナイフは顔すれすれの所でヒュッと音を立てる。窓の近くで押し合いをしてるうちに、私たちは非常口の近くまで来た。

「ドア、開けますね。」

アッコちゃんが冷静に非常口のドアを開けた。

私は男を非常口の方へ押しやって、ドアの所で男の腰をめがけてかかとで思い切り蹴った。勢いで男の体が私から離れる。男の背後におもちゃみたいな小さな街の様子が見えた。一体ここは何階なんだ。

スローモーションで後ろに倒れていく男の姿を最後まで見ずに、アッコちゃんはドアを閉めた。ついでに鍵もかける。

「どうもご迷惑をおかけして…落ちてないかな。」

肩で息をしながら私が言うと、

「踊り場は一応あったよね。」

と、ホシノさん。キムラさんもフォローしてくれる。

「正当防衛だろ。」

「じゃあ、あれは放っておいて証拠品を持って帰りましょうか。」

キタザトさんが冷凍のブツをワゴンに乗せた。

一気に場の空気が和む。

「やれやれ。お疲れさーん。」

「ビール飲みたいなぁ。」

「今日はどこ行く?」

「150円のとこー。」

「それいつもといっしょ。」

「今日のビールは美味いだろうな。かー、たまらんっ。」

「ヨダレドリ食べてみたいな。」

「トリなら任せて下さい。」

ワゴンをがらがら曳きながら部屋を出る。

私は部屋のドアを丁寧に閉めた。









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