陳述書[中野雅司]

住民監査を請求する中野雅司です。
私は、住友商事で鉄道車両輸出を担当したのち、ロンドン大学のビジネススクールでMBAを取得し、父の会社を承継し、不動産事業を行っています。
今回大阪IRと締結された契約に多くの矛盾と疑問を感じますので、監査請求人に加わりました。
1) 何故、巨額の土壌改良費等を公費で負担しなければならないのか理屈が通らないと思います。
本来、公募の条件では土地改良費を瑕疵担保責任を負わない条件でしたし、それまでの取引もその条件でなされていましたので、整合性がとれません。
それが大阪市のそれまでの条件でした。
そもそもこの土地の問題が発生する根本は、大阪市の都市計画審議会において、夢洲の用途地域を工業地域・準工業地域から商業地域に変更する審議があり、賛成多数で決定しました。
その審議において
① 台風、津波、高潮、南海トラフ地震などの大規模災害に対して、夢洲は大阪湾岸でも最も暴風雨と津波の被害を受けるなど脆弱な土地である。また土壌の液状化や浸水、地震、暴風雨時における交通インフラ機能の停止により万博やカジノ、IRで予想される来訪者の孤立なども想定され、多くの人が長時間滞在する商業施設、集客施設を建設するのは妥当ではないというご意見が出されていました。
➡これに対しては、大阪市として、国際観光拠点とするエリアは、南海トラフ地震による想定上の津波最高の高さから5㍍以上高く盛り土することとしており、また粘土質の土砂で埋め立てていることから液状化にも強い基盤となっていると回答し、問題ないとしていました。
② 夢洲における集客施設、商業施設の立地に関するものの2点目といたしまして、夢洲の土壌は不安的で汚染物質や有害物質が含まれているため、商業施設、集客施設を建設することが妥当ではないご意見もだされていました。
➡これに対する大阪市の見解ですが、「国際観光拠点化を図るエリアについては、受け入れ時点での基準を順守した浚渫土砂や建設発生残土で埋め立てを行っております。

すなわち、今回大阪市が多大な土壌課題コストを負担することになった原因は、このいい加減な都市計画審議会にあったと言わざるを得ません。
十分に商業地域としての用途に耐えると強弁して、都計審で用途変更を実施したにもかかわらず、事業者1社が少しの調査をもとに土地課題の解決を求めると簡単に応じてしまう姿勢に驚きを禁じ得ません。
これは、大阪市の業務上の大きな手抜きであり、ミスによって、多大な税金を使わなければならなくなったということに他なりません。
その都計審も都計審の委員は計29人で、大阪市会議員14人、学識者15人で構成。この当日、学識者7人は欠席しており、参加した委員からも質問や意見は何も出ませんでした。 本当にこのような場で、用途地域の変更を行っても良かったのかと思われます。
私は、宅地建物取引主任者の資格を有するものですが、用途地域の指定の持つ意味の重要性を日頃の業務からよく存じ上げています。この経緯を知って、本当に呆れるばかりです。用途地域の変更が行われた際に何故本来の土地の状況に合わせた変更にしなかったのか?大いに疑問に思います。

2)事業者の公募について、1次公募では応募者がゼロという結果でした。
そこで、オリックス+MGMグループから土壌改良の費用負担の条件を求められ、それに大阪市が応じたことから、2次募集で1社のみの応札になったという経緯があります。
ところが、このことについても、土地の改良費用負担の変更という大きな条件変更があったにもかかわらず、他グループの応募検討に十分な期間が与えられたのかという疑問が他から出されたりしています。
また、公募する側が、何をどこまで負担すべきかという事前検討を全くしないまま公募をしたということが、事業者の言うがままのコストを負担するという何とも酷い変更手続きであったと言わざるをえません。

3)このような条件を変更するのは、よほど大きな変化があってのことであり、それ相応の変更するメリットとデメリットが十分に検討されるものであるはずです。
その条件がどうして1社の要望で変えられなければならないでしょうか?
都計審であれほど、きっぱりと液状化はしないと言い切ったことは、同時に世界博覧会協会にも同じように液状化はしないと伝えられているわけですが、そのことは、訂正しないのでしょうか?
さらに、都計審で基準を順守した浚渫土砂や建設発生残土で埋め立てているということは、撤回するのでしょうか?あれほど、都計審で明言したことが、かくも簡単に覆るということが私には、信じられません。

4)また、事業者の主張を認めるにあたって、大阪市としての独自の土壌調査がしっかりとなされていないことも非常に気にかかります。
大阪市が今までの主張を完全に撤回するにしても、当然現状の土壌の状態等を調査するでしょうし、そのことによって、この地で引き続きIRを誘致すべき土地かどうかということをコストを比較して検討することが可能になるし、当然行うべき検討ステップであったと思います。
夢洲の土壌の調査をしない前に負担することを明言することは、あまりにも乱暴です。いくらかかるかわからないものを負担するという約束することが許されるのでしょうか?大阪市が責任を持って調査した上で、負担するのかしないのかを決めるべきであったと思う。
知事も市長も民間の建物なので、税金は一切使わないと公言していたものがどうして巨額の負担になったのか?その判断は妥当が検証されるべき。

5)土地課題解決を債務負担行為で行うというのは、実際の大阪市の財政負担はさらに膨らむ可能性が高く望ましくない。
 予算で約束する債務負担行為とは後年度の財政負担の「限度額」であり、これをさらに議会の同意で引き上げ可能(債務負担行為に基づいて多額の財政支出を行えば、その後の限度額引き上げを行わないことは政治行政的に極めて困難となる)
・今回の土地課題対策(地中障害物の撤去、土壌汚染対策、液状化対策)では、実際の地中の状態が不明であるため、788億円という債務負担行為の金額の根拠が疑わしい
・通常の公共事業では、自治体が当該事業の費用の積算を行い、それを基に入札を通じて適正価格を担保した上で、業者へ事業を行わせる。それに対して今回は大阪IR株式会社との「随意契約」であり、適正価格で事業が行われるという保証はない
➡どうして、わざわざ債務負担行為にする必要があるのかわかりません。
身を切る改革を行うのであれば、1円でもコストを軽減する方法をとるべきです。

6)通常、土壌に汚染などの問題がある土地取引に関しては、慎重に契約を交わすのが不動産取引の常識です。ですから、土壌の問題は、重要事項で説明すべきものとして規定されています。
ところが、この一連の取引の経緯で、大阪市側は、極端に言うと土地に問題があったことをごまかそうとしたり、隠蔽しようしたように見えます。
すなわち、従来より責任を持って担当してきた市の港湾局を改編し、必要もないのに府の港湾局と合併し、市の港湾局の職員の発言権を弱めたのではないかとさえ見えます。現に夢洲の土地問題に真面目に警告を発して続けた真面目な市の職員は、配置替えをされてしまっていると聞いています。
どうして、夢洲の土地問題に詳しくないIR推進局の幹部が夢洲の土地問題のイニシャティブをとったのか、そこには、私たち民間人ではわからない得体の知れないものを感じます。

7)基本協定書が著しく不平等な解除権が設定されている。
大阪IR株式会社(事業者)の撤退条件が非常に緩いの対し、大阪府・大阪市がキャンセルした時のペナルティは、非常に大きいものになっています。これは、大阪市が大阪IR株式会社に実質的・形式的に従属的な立場に置かれていると言えます。
このような契約をもし、民間の会社で結ぼうものなら、場合によっては、背任行為とみなされるほど、不平等で、酷いものであると思います。

8)事業採算がきっちりと検証されておらず、また、その内容が府民に開示されていません。
民間事業者が全て民間のお金で事業を行うのならいざ知らず、それでも維新のオープンの原則から言えば開示すべきですが、かつてないほど巨額の公金を使うことになった以上その事業の実現可能性は府民に理解できるように細かく明らかにする必要があります。そこに企業秘密の存在する余地はありません。

9)このIR計画自体が当初言われていたものと似て非なるものになってしまっています。
海外の富裕層を呼び込み、観光産業の大いなる振興を図り、一大エンターテイメント産業を誘致するのが目的で、海外の富裕層向けにカジノを開設するというのが、もともとの私たち府民への説明でした。
ところが、カジノは、日本にいる日本人向けであり、エンターテイメント産業を盛り上げるマイス施設は、当初の予定よりもはるかに見ずぼらしい規模になり、とても大きな集客が望めるとは思えません。

10)そもそも、ギャンブル合法化は、大手を振って認められたものではなく、大きな経済的メリットの代償という法的性質が大きいものではないのだろうか?
といつことは、事業採算性は、カジノを行うためには、何よりも不可欠な要素
それがきっちりと担保されているという証明が為されなければ、カジノを開くことはできないのは、当然。
ところが、提示された事業実現性を検証されたデータはなく、断片的に発表されている数字は、とても本件の実現可能性を表すものではないことは、素人目にもあきらかではないでしょうか?

最後に、この大阪IRの計画は、後世に禍根を残す非常に杜撰な計画であり、大阪の成長に資するどころか、大阪を破綻に導く危険性を内包していると思うので、このまま進めることなく、徹底的な検証と見直しが必要だと思います。


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