居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜 P38
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて③
「皐月、急がないと乗り遅れるぞ」
父はスタスタと店の奥へ入っていってしまった。
「お父さん! ダメよ。戻りましょう」
私はあわてて父を止めたが父は店の奥へ入ってしまった。
どうしよう……。
だが父はさほど奥には入らず券売機(?)の前で立ちどまっている。
よし、何とか父を外へ連れ出さなきゃ。
「お父さん、切符買わなきゃ乗れないでしょ」
優しく…優しく……。
怒ってはいけない……。
心の中で自分に言い聞かせる。
うっかり私が怒って怒鳴りつけてしまうと父はパニックを起こして暴れてしまうかもしれない。
事実、何度か騒ぎになったりした事がある。
年を取ったと言っても男性だ。
力では敵わない。
「あぁ…切符を買わないとだな……」
父は納得しているのか…いないのか……。
切符が買えない事を理由に戻ろうと声をかけようと思ったその時……!
ガラガラビッシャーン!
大きな雷鳴ともにバケツをひっくり返したような雨が降ってきた。
ザー……
ザー…ザー……。
え? 土砂降り?
傘持ってないんだけど……。
正確には車で父を迎えに来たので車には傘がある。
父のGPSが駅前付近でうろちょろしているのを確認したから車で来たのだ。
車で駅前まで先回りで移動し、車は駅前の有料駐車場に止めて父を探した。
だが……この土砂降りの雨の中……。
父を車がある場所まで無事誘導できる自信は…無い!
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3.山本 皐月 故郷は遠きにありて④
へ続く。
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