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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P39

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて④

 幸い財布は持っている。
 仕方ない……
 雨宿りさせてもらおう。

 今の時刻は午後5時。
 お店は開店時間になったばかりだ。
 一時間もすれば止むかな…
 止んで欲しいなぁ…止まなくても小雨程度になってくれると助かるんだけど……。

 私は券売機で【シリウス駅(17:00) ― サザンクロス駅(18:00)】を購入することにした。
 なんとなくの気分で『マリンパーク号』の席を選ぶ。

 へぇ…本物の乗車券そっくり……

 まじまじと眺めていたら父が店の更に奥へと勝手に入っていってしまった。
 私は慌てて父の後を追う。

【待合室】
と、書かれたドアを父はおもむろに開けた。
 そしてスタスタと中に入りどっかりと座る。
 でも、ここはどう見ても食事ができる部屋ではない。キョロキョロと部屋を見回すと矢印が入ってきたドアとは違うドアを指していた。
【改札口はこちら】

 改札口? このドアから奥に入るのかしら……?
 よくわからないけど行ってみるしかない!
 私は父に呼びかける。
「お父さん。ここは【待合室】だからもっと奥に行きましょう」
「おぅ、そうか。もう電車が出るのか?」
「そうですよ。行きましょう」

 父の話を否定してはいけない。
 新しい情報は混乱させるだけなのだ。
 どんなところなのか父を混乱させずに席まで誘導できるのか。
 かなり不安だが仕方ない……。

 だが、通路の先に有った光景は私の予想を遥かに上回る設備だった。

 本物そっくりの自動改札機。
 駅のプラットフォームに止まる特急列車……。

 え? ここ居酒屋さんだよね?

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑤

 へ続く。


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