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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P43

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑧

 お父さんが食べられそうな物……。
 何があるかな…難しいな……。

 座席前のポケットに入っていたメニューをめくる。
 どれも美味しそうだが塩分も多そうだ。
 父は特に塩分制限を受けている訳ではないが年齢が年齢だから気をつけるに越した事はないと医者からも言われている。
 なので日頃から塩分には気をつけているのだ。

「魚料理です。焼き魚…煮魚…お造り…フライは如何ですか…」

…味つけ…調整できるかしら……。

「すみません。『鰆の西京味噌焼き』をお願いします」
「かしこまりました」

 供された料理には案の定味噌がたっぷりかかっている。
 父に渡す分の料理はその味噌を刮げ取ってから渡した。
 うん、これなら塩分減らせたかな?

「はい、お父さん。お魚」
「あぁ…」

 父は短く答えると焼き魚に箸をつけた。
 様子を観察しつつ自分も食べる。
 うん、私もお味噌は控えめにしよう。
 お味噌たっぷりの方が美味しいけど、私も塩分には気をつけなきゃ。

 もう少し食べたいけどそろそろお腹がいっぱいだ。
 食べるか…食べないか……
 メニューとにらめっこしながら考える。
 ……そう言えば、こんなふうに外食して考えるのは久しぶりな気がした。
 何だか楽しい!

『間もなく【フォーマルクラフト駅】に到着します。お降りの方はお手周り品を充分ご確認のうえ……』

 降車アナウンスが流れてきた。
 私はメニューの【駅限定・名物料理】をなんとなく確認する。

 フォーマルクラフト駅の駅限定・名物料理…は……
【鰹のタタキ】だ!
 しかも期間限定だという。
 買わなくちゃ!

 私はフォーマルクラフト駅に着くや否やホーム側の窓を開け売り子さんを呼び止めた。
「すみませ〜ん! フォーマルクラフト駅限定メニューの【鰹のタタキ】お願いします」
「かしこまりましたぁ」

 私は無事、鰹のタタキを購入できた。
 そして、父に渡す前に父の分の皿は念のため鰹を更に小さく切った。
 タレを加減して少なめにかける。

「はい、お父さん。【鰹のタタキ】よ」
空いた皿をトレイから外し落ちないようにジョイントさせた。
「おぅ…ご馳走だな」
 父は嬉しそうにつぶやく。
 私もなんだか嬉しくなった。

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑨

 へ続く。 


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