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居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜         P44

3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑨

 ワゴンが回ってきたので『根野菜炊き合わせ』も買った。
 煮汁から野菜だけ取り出して空いた小鉢に盛り父に渡す。
 そんなに煮汁にたっぷり浸かっている訳でも無かったがやはり気にしてしまう。
「はい、お父さん。野菜も食べてね」
「わかってるよ、母さん」

 おやおや……
 どうやら父に取って今の私は母親らしい。
 喉につかえないかとか…塩分量が多すぎないかとか……やってる事は母親と一緒か。
 90近い息子?を持つ事になるとは思わなかった。

 長い人生、何があるかわからないもんだねぇ……。

「そう言えば…裏山で猫が集会してたのを見たんだよ」
 どうやら今日の父は機嫌がかなり良いようだ。
 機嫌が良いと必ず話す『裏山で猫が集会をしていた話』だ。
 子供の頃、たまたま夜中に目が覚めた時、家で飼っていた猫が家を抜け出して裏山に登っていくのに気がついた父はその猫の後をつけてみたんだそうだ。
 山(というか大きさ的には丘?)の頂上近くの開けたて場所に何匹もの猫がうじゃうじゃと集まっていたという。
 近隣の猫という猫が居たんじゃないかと子供の父は思ったとか……。
 ケンカをしたりじゃれあったりしている猫もいたけれどほとんどの猫は大人しく座って月の光を浴びていた。
 幻想的な光景だったと父は話す。

 ……あと何回、父の口から直接この話を聞けるだろう……。
 子供の頃から耳にタコができるほど聞かされた。
 話の内容なんか始まりから落ちまで全部わかっている。知っている。
 それでも私は父から『裏山で猫が集会していた話』を聞きたい。
 何度でも聞きたいと思う。
 何度でも聞きたいと…願う……。

居酒屋繁盛異聞 旅が好き〜列車居酒屋〜
3.山本 皐月 故郷は遠きにありて⑩

 へ続く。
 

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