三途の川の河原の少女

ー帰命頂礼世の中の 定め難きは無常なり。
親に先立つ有様に 諸事のあわれをとどめたり。ー
              賽の河原和讃 より


ーーー三途の川の辺 賽の河原ーーー

 ここに来て、どれくらいの月日を過ごしたか、私にはもうわからなくなってしまった。

 大きな石を河原に運んで来て、ただ高く積み上げていく。鬼より高く積まないと、三途の川の向こうへは行けない。だから、私は誰よりも努力している。全身傷だらけで、血が止まらなくても、私はめげずに頑張っている。

 ここにいる子どもたちは、すぐに泣く。泣き声が止むことなんて無い。特に、積み上げた石を鬼が金棒で壊したときには、大きな声で泣き叫ぶ。

 でも私は泣かない。私はあの子達よりもずっと強い。だからきっと、一番最初に石を積み上げ終わるのは、私なんだ。

 「ここはどこ?どこに行けばいいの?」

 小さな女の子が話しかけてきた。たまに誰かがここにやってくる。

「見ればわかるでしょ?石を積み上げればいいの。鬼よりも高くね。」

「・・・。」

「私にしがみついてないで、さっさと始めなよ。私も忙しいんだから。」

 そうして、私は大きな石を探すために、河原を離れた。あの子になにか説明したって仕方がない。だって、ここでは自力で石を積まないといけないんだから。


ーー数日と数刻後ーー

「あぁぁぁぁぁぁ!あぁ、あぁ、あぁぁぁぁぁぁ!」

 あの子はまた、積んだ石を鬼に壊されて泣いている。あの子だって他の子と同じ。弱いから泣くんだ。

 「どがぁぁぁぁ! がらがらがらがら・・・。」

 私もまた、鬼に壊された。でも私は泣かない。私はあの子とは違う。私は何回壊されても頑張れる。強い子だから。


ーー更に数日と数刻後ーー

「あぁぇっ!ごへっごへぇあぁぇぁ!」

 あの子はずっと泣いている。泣きすぎて、泣き方を忘れてしまったみたいだ。いつになったらわかるんだろう。ここでやることは泣くことじゃない。あんなんだからここへやってきたんだ。

「あぁぁっあぁっあぁあぁぁ!」


ーー数刻後ーー

「どかぁっっ!!!がらがらがらがら・・・。」
「・・・・・・。」

 あの子は泣かなかった。やっと少しだけうるさくなくなった。うるさいと石を積むのに集中できない。やっと集中できる。


ーー更に数刻後ーー

 「・・・・・・。」
 あの子はもう石を積むことも、泣くこともしない。ただ地べたに座って、地面を見つめているだけ。頑張ることを諦めたのだろう。あの子はもう駄目だ。三途の川の向こうへ行くことはできない。弱い子はずっとここから離れることはできない。

すっ

「ん?」

 あの子の方を見る。すると、あの子が立ち上がっている。川の向こう側を真っ直ぐ見つめている。なにか様子が変だ。

・・・・・・!!

 あの子が消えた!?なぜ!?私は確かにあの子のことをじっと見ていたはずだ。消えるなんてあり得ない!・・・・・・もしかして・・・・・・・いや!そんな事あるわけ無い!あの子に限ってそんなこと!!私よりも先にあの子が行くなんて!!!

「どがぁっっ!がらがらがらがら・・・。」


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 彼女は、あの子が三途の川の向こうへ行ったのだと、直感的に理解した。しかしながら、彼女はそれを信じることができなかった・・・いや、信じたくなかった。何故ならば、彼女は自分の頑張りを信じて疑わず、頑張った分だけ報われると信じていたからだ。
 
 彼女は徐ろに鬼の顔を見た。それが一瞬、仏の顔をしているかのように、彼女の目には写った。そのことがより一層、彼女の焦りや妬みを、深くしていくのであった。
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