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「罪深き緑の夏」を十数年ぶりに手にした今月の八日から、わたしは毎日、読書をするようになった。
夜、眠る前に一時間前後、ソファに座って読んでいる。

今まで皆無だった「読書をしたい」という欲は、毎日、満たされるが無くなることはなく、翌日になれば「本が読みたい」と思う。

前によく読書をしていたのは、高校生から大学生の頃。図書室や本屋へ通い、気になったものを買い、毎日、読んだ。移動中のバスや電車、仕事の休憩中、授業中に先生の目の前で読書をしたこともあった(それは、先生に対して「もっとちゃんと授業をしろ」と言いたかったからなのだけど)。

それから、十数年経って、また読書をしている。もう、本を読む生活なんてしないだろうと思っていたのに。

七夕にオープンした「一乗寺BOOK APARTMENT」という棚貸し本屋さん、シェア型書店さんのことを知ったのは、今月に入ってから。SNSで見つけたのだった。

わたしは、その投稿を見て「ここで棚を借りて本を並べたい!」と思った。
それまで、棚を貸している本屋があることは知っていたし、京都にあることも知っていた。しかし、だからと言って「棚を借りよう」とは思わなかった。自分の作った本の在庫が眠っていても、それを売ろうとは思いつかなかったのだ。

一乗寺ブクアパがオープンするというSNSの投稿を見てから、わたしが棚主になりたい旨をメールするまでにそれほど時間はかからなかった。わたしの「一緒に借りて、棚主になろう」という提案にパートナーがあっさり「いいよ」と言ってくれたからだ。

そうして、オープンの日である七夕に、わたしは一乗寺ブクアパへ行き、そのまま棚主となった。持ってきたZINEを並べ終えて、写真を撮り、SNSに投稿する。喜びという高揚感に満たされると、よくわたしはこう思う、「この時間が永遠に続けばいいのに」と。

少し落ち着いてきてから、他の棚に並んでいる本を眺め始めた。棚は31cmの正方形が一棚としてカウントされる。木の板で四角に区切られた空間に、棚主の人が選んだ本を並べる。

自分で書いた小説のZINEを置く棚、パレスチナ問題に特化した棚、紙で本を包みコメントのみ書かれた秘本を置く棚、短歌ばかりを扱う棚、着物に関する本や韓国に縁のある本だけを置く棚など、あらゆる色の棚が一堂に会していた。

その中にわたしは見つけたのだ。
「出会ってしまった」という言葉の方が近いかもしれない。

「罪深き緑の夏 服部まゆみ」

わたしはその文字を見るやいなや、一緒に来ていたパートナーに「服部まゆみがある!」と言っていた。

衝撃的だった。こんなところで見つけるなんて考えもしなかった。いろんな人が本を並べるのだから、今思えばあってもおかしくなかったろうに、微塵もその可能性に気づいていなかった。

わたしは驚きながら喜んでいたが、その本を手に取ることはなかった。想像していたよりも、お客さんがたくさんいて、遠慮してしまったのだ。しばらく、一乗寺ブクアパで過ごして帰宅し、夕食を摂った。

しかし、「『罪深き緑の夏』があった」ということが、帰ってからも頭を離れない。しかも、透けた紙(それは後にトレーシングペーパーであることが分かった)に表紙を包まれていた。棚主さんが本を大切に扱っているのだということは、すぐに分かる。

「あの本が欲しい」

翌日、わたしはまた一乗寺ブクアパへ行っていた。そして、「罪深き緑の夏」を手に入れたのだった。この本とも十数年ぶり。わたしはその日の内に「罪深き緑の夏」を読み終わった。

それからも、一乗寺ブクアパに通い、同じ棚主さんから本を買った。服部まゆみの「レオナルドのユダ」「シメール」。
服部まゆみだけでなく、他にも好きそうな作品があったのでお迎えした。気持ちだけで言うならこの棚ごと欲しいくらいだ。


服部まゆみという作家に出会ったのは、高校生のとき。人に勧められ、「この闇と光」を買ったときだった。
勧めてくれた人との話は書けないが、この物語はわたしにとって重要なものになっている。

読書をやめても、「この闇と光」は家にあった。一時、手放したが忘れられず、またお迎えした。


棚の中に「罪深き緑の夏」を見つけたとき、もうその本でなければならなかった。他の書店で、同じ小説を買うのではなく、出会ってしまったこの本を迎えたい。

わたしは本に恋をしたのだろうか。いや、していたのだろうか。

今は一頁、進むごとに、物語の美しさ、独特な世界観への没入感、そして懐かしさを感じる。久しぶりに浸る耽美な小説に思う存分、酔い、傾倒する。
わたしにとって、たまらないほどの嬉しさと、愛しさがある。

これから、あらゆる物語を読んでも、この出会いは忘れない。この物語を忘れていなかったから、また出会えたのだ。今度こそ、手元に置いて離さないと誓おう。


これを書き始めて一時間経ってしまった。明日は用事があるのに。もう寝なければ。おやすみ。

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