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物思いにふける夜にあなたを想う

わたしはパートナーにおやすみを告げると、明かりを暗くして、ソファに座り、フジコ・ヘミングの亡き王女のためのパヴァーヌを聞く。

フジコ・ヘミングという人は、わたしがなりたい人間像に近くて、不思議と憧れのある人物だ。

そんな人のピアノを聞きながら、あれこれ考える。

夜は静かだ。誰も彼もが眠ってしまって、あらゆるものが止まって、音がしなくなる。そんな静かな夜が好き。

静寂が訪れると、気持ちも穏やかになって、好きな音楽を聞きながら他人の存在を忘れてしまえる。

そんな中でひとり考える。

今の穏やかな生活は、あと、どれくらい続くのだろうか。

ここ数年は、わたしの人生の中で一番、平穏な時間だった。パートナーの支えもあって、落ち着いた日々を送っている。

けれども、いつか青天の霹靂のような事件が起きる。

わたしの人生はいつもそうだった。病気で倒れたり、声が出なくなったり。社会復帰できないなんて言われたこともあった。

穏やかな生活を続けながら、いつかやってくるであろう衝撃に怯えている。神様に祈るよりも、恨む気持ちが強くなるような、そんな出来事が人生には起こるから。

こんな静かで落ち着いた夜も、いつかは終わりを迎える。それが、どんなかたちであれ、わたしにとっては寂しく、辛いことだろう。

いつかはパートナーとの別れも来る。何年後か、何十年後か、明日か。それは分からないけど、やって来ることだけは決まっている。

あなたが死んだら、今まで一緒に過ごしてきた、過去だけになる。わたしはいつまでそれを覚えていられるだろう。何もかもを忘れてしまう可能性だってある。

それでも、あなたはわたしを好きでいてくれるだろうし、わたしはあなたが行った先へ行きたい。それが、天国でも地獄でも、輪廻転生した先でも、またあなたと穏やかに暮らしたいから。

元気なうちに手紙を書き溜めて、たくさん書いて送るわ。わたしが先に逝ったときは、そこにある言葉たちを見て、わたしを思い出して。

いつか、わたしも死ぬ。世界は終わる。
この穏やかな夜も、朝日が昇れば人々が目覚めて、あらゆるものが動き出して、終わっていく。

わたしはできる限り、わたしがやりたい人生を歩みたい。それだけを神様に願う。でも、わかっている。そんなことがずっと続くはずないってことくらい。

それでも、願わずにはいられない。わたしの人生を取り戻したい。そして、天寿を全うしたい。あなたに寂しい思いはさせたくないから、長生きしないといけない。

人生は何が起きるか分からない。だから、毎日、「また明日ね」と言ってから眠る。

その一言が最後かもしれない。明日、目覚めないかもしれない。そんな不安をかき消すために、言ったことを信じて寝るのだ。

何十年と死にたかったわたしが、こんなことを願うなんて、都合が良すぎるかもしれないけど、今の素直な気持ちは「永遠にあなたといたい」なの。

永遠なんてないのに、それを願ってしまう。ひとりで夜を過ごしていると、あなたの寝息を確かめたくなる。

わたしは強欲だから、あれもこれも願いたくなる。そして、勝手に裏切られたと恨んで、人生を呪うの。そういうときがまた来る。わたしは素直過ぎるから。

なんだか眠くなってきた。

明日、わたしも目覚めないかもしれないけど、あなたと過ごせて幸せよ。人生の何もかもを穏やかにしてくれたあなたと、来世でも、あの世でも、一緒になりたいと思う。

わたしたちの生活に何かが起きても、共にあることに変わりはない。目に見えるものだけが全てじゃないから。

神を恨み、人生を呪っても、全て忘れてしまっても、わたしたちが過ごした時間がなくなるわけではない。

明日も目が覚めて「おはよう」と言いたい。
それだけで、わたしは生きていける。

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