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夢乃くらげは何者なのか

水族館に行こうと言い出したのは自分か、パートナーか。記憶は定かではないが⁡、初めて地元の水族館に行った。⁡

新しく水族館がオープンした、という話を聞いたのはもう何年も前のこと。行ってみたいという気持ちはあったものの、いつでも行けるだろうと思って、行っていなかった。⁡

水族館に入ると、サンショウウオがお出迎え。10匹くらいがデカい身体を重ね合わせて、端っこでほとんど動かない。しんどくないのだろうか。

サンショウウオをしばらく見て、先に進む。次に印象的だったのは大水槽。⁡

⁡⁡⁡あらゆる魚たちが各々の流れに乗って泳いでいる。急いでいるものもいれば、ゆったりとその広い空間いっぱいに泳ぐものもいる。⁡

大きな魚は、まるで無重力な中にあるのに、身体をひろげて、好きに羽ばたけるような、不思議な軽やかさとテンポで同じ道筋をぐるぐると周回する。⁡

小さな魚は群れで泳ぎ、あるいはひとりでのんびりとして、泳がず端でぼーっとしているものもいた。⁡

大水槽をかなりの時間、パートナーと眺めていると、わたしはなんだか楽しくなってきた。海の中を少し覗くことができて、気持ちは子どもに戻ったよう。この大水槽はわたしの気持ちを満たしてくれた。⁡

⁡⁡⁡大水槽の次に素敵な気持ちに誘ってくれたのは、一面に広がるくらげの展示である。⁡

四角い壁が斜めに並んで、その中でくらげがふわふわと姿を見せる。その横には、入ると180度くらげに囲まれるドームのような水槽があった。⁡

⁡⁡⁡早速、入ってみる。⁡

⁡⁡⁡わたしは本当に見蕩れてしまった。揺蕩うくらげたちは、自発的な動きを見せない。水槽内の流れにゆっくり流され、一定の速さで、わたしたちの回りにいる。⁡

何がそんなに気に入ってしまったのか。それを説明するのは難しい。⁡

とにかく神秘的で、美しく、魅惑的な存在だと思った。⁡

その展示で、かなりの枚数、くらげを撮影した。くらげたちは、優しく色を変えていくライトに下から照らされているのに、微動だにせず、ただ流れに身を任せていた。⁡

わたしは、そのとき、「くらげになりたい」と強く思った。⁡

こんな素敵なものになりたい。⁡

水族館から帰って、わたしは「くらげ」と名乗り始めた。今では、その名前でみんなから呼ばれている。⁡

名前を呼ばれるたびに、素敵な存在になれたのだろうかと少し思ったりする。⁡

わたしも水のなかを揺蕩うような存在になりたい。⁡

説明ができない魅力を持ちたい。⁡

言葉にならない素敵なところが欲しい。⁡

わたしは、夢乃くらげ。夢の中にいるくらげ。夢を揺蕩い、流れていく存在。⁡

わたしはなりたいわたしに、なっているだろうか。⁡

またあのくらげたちに会いたい。

(この文章は、文学フリマで配ったフリーペーパーに掲載していたものです / 写真 UTATANEさん)

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