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無心 ービキナーズラックー

ゼミの一期上の先輩は男子ばかりだった。

その中に一人だけ女性の先輩がいたけれど、ちやほやされているというよりは、女帝としてそこに君臨していた。
紅一強。

男子ばかりだから、それはもうくだらなくて、そのくだらなさが大好きだった。

当時、ゼミの先生もまだ若く、その野郎どもとのやり取りがとても楽しそうだった。
ゼミ終わりの酒も進む進む。
先生の奥さまは、毎週毎週よく飲み会に送り出されていたなぁと思う。
わりと新婚だったのに。

私らの期は男女半々くらいで、女子は先輩方からそれなりに可愛がってもらっていた。

とある日のボーリング大会。
そう、先輩方とボーリングに行ったんだ。

ボーリングなんて子どもの頃以来だったから、スコアのつけ方もわからない。
(当時は手書きだった)

さて、ゲームが始まる。

ぎこちなく、されど素直にボールを投げた。フォームの正解もわからない。
ボールはゆっくり真っ直ぐ転がって、きれいにピンをなぎ倒した。

わ!

そっと後ろを振り返る。

誰も私を見ていない。

先輩達はわちゃわちゃしてる。

それから幾度も自分の番がまわって来たけれど、その都度恐ろしく当たるのだ。

え!

後ろを振り返る。

誰も見てない。見ちゃいねえ。

先輩方は、近くにある女子大との合コン話で盛り上がっている。
近々予定があるとかないとか。

あの、あたし、なんかすごいんですけど……。

そのあとも、淡々と投げ続けた。

ゲームが終わってスコアを見ると、200近くあった。

「先輩、あたし、あたし……」

実はこれすごいんじゃないかと伝えたかったけど、みんなはもう次の飲み会の場所の話なんかしていて。

ひとり狐につままれた思いでそっとレーンを振り返り、みんなに付いてその場を離れた。

あれから月日は流れ、何度となくボーリングをする機会はあったけど、二度とそんなスコアは出なかった。
よくて90、悪くて67くらい。
下手すぎだ。

ビギナーズラックだったのだろう。

いや、無心の勝利だったと思うのだ。

狙わない方がいける。
どんなことでも。

ー 無心たれ ー

あの日以来、密かに自分の教訓としているとかいないとか。

ていうか先輩!
見ててよ!
すごかったじゃん私!

ちゃんとアピールできる人になりたいとも、あの時思った。

それは今でもうまく出来ない。

もっと力強い生活をこの手に!

ガストロンジャー



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