「かき氷の赤井さん🍧」第五章「彼女の本心」

家に帰り、机に座る。勉強をすべきなんだろうが、それどころではない。椅子の上で足を組み、ユラユラしながら窓の外を見た。

「伊予はちゃんと帰ったかな…」

ちょっと、やり過ぎた。話していることは普段の彼女通り。ちょっと怒らせるようなことを言って、気を引こうとするパターンは定番中の定番なのに、軽く流せなかった。

「だからってさー、どうしたらいいんだよ」

昔から国語のテストが嫌いだ。それは「作者は何を伝えたかったか答えなさい」という設問がどうしても理解できないから。そもそも、作者本人ではないのに、伝えたいことなんてわかる訳がない。そんな話を伊予にした時

「元太は真面目だなー。学校で学ぶ国語なんて、ポジティブな答えさえ出しとけば点数は取れるよ」

至極まともなことを言ったので、大層驚いた記憶。いつも、フラフラフワフワしていて、着実とか堅実がまったく似合わないと思っていたのに、そんなことを言うなんて、彼女らしくない。

「伊予らしくない…?」

僕は勝手に決めつけてはいなかったろうか。さっきも訳の分からないワガママ言って、困らせようとしているとカチンときたが、訳の分からないワガママじゃないとしたら。

「私が元太と結婚して、主婦になりたいとか言ったら、困るんじゃないの?」

ひょっとして…彼女なら十分考えられる。夢ってこういう仕事につきたいとか、好きなことを続けたいとか、そういうことばかりじゃない。

僕と結婚。

若いからまだ早いとかそんな言葉は伊予の中にないと思った。だけど、一般的には高校卒業してすぐ結婚とか、子供ができてしまった以外ではまず、ない。それをわかっていて、困るんじゃないの?と僕に遠回しに聞いたのだ。

「伊予は元太と結婚したいけど、元太はどう思う?」

本当はこう聞きたかったに違いない。

「あー、もぅー、そんな謎解きみたいなのわかる訳ない!」

彼女のことは全部、理解していると思っていた。ハキハキした物言いのくせに、本当に気づいて欲しいことはかなり遠回しに言う。犬にボール取ってこいと目の前に投げればいいのに、わざわざ川の中に投げるみたいな。

「答えてあげないと」

スマホを手に取ったが、何か違う。きちんと会って、伝えたかった。スマホで居場所を確認して会うのが早いのはわかるけれど、スマホ越しの声じゃなくて、伊予から出る言葉を聞きたかった。もう、別れてから1時間以上が経っている。学校にはいない。変な確信があった。だけど、あれだけ激しく泣いて、家にまっすぐ帰るような子ではない。家族に心配かけるのが何よりも嫌いなことを僕はわかっていた。

「あ!」

とりあえず家を飛び出す。自転車を漕ぎながら川沿いの道を走る。すすきが揺れるのを感じながら、ひたすら漕ぐ。

着いた。まずは中に入る。キョロキョロと彼女を探す。

真正面からハンカチで目を押さえながら歩いてくる制服姿の女の子。

「伊予!」

「元太?」

やっと、会えた。あれだけリアルで聞きたいと思っていた伊予の最初の声はたった一言。しかも名前だけ。

「あのね…」

ゆっくり、僕は話し出す。短い時間だけど、考えた答え。僕は大きく深呼吸をした。


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